三田村真吾の憂鬱-7
昨日の閉店後、同期の辰巳と二人で居酒屋で飲んでいた時のことだ。
しばらくは仕事の愚痴や悩み、将来のことなどをとりとめもなく語り合っていたが、そのうち辰巳がいきなり言いだしたのだ。
「三田村さぁ。 あいりちゃんてどう思う?」
辰巳はかなり酔っているのか半分呂律がまわっていない。
「どう……って、まぁ…普通にかわいいと思うで」
あいりは新入社員合宿の時から目立つ存在で、同じ店に配属が決まった時、三田村と辰巳は同期の男共からさんざん恨みをかったものである。
三田村には慶子がいたから初めからあいりをどうこうしたいというような気持ちはまったくなかったが、同じ店にかわいい同期がいるというのは男としてもちろん悪い気はしない。
会社で話ができれば嬉しかったし、困っていれば助けてやりたいとも思う。
「やっぱかわいいだろ?そう思うだろ?イヒヒ……そうだよなぁ」
「まあ……そやな」
辰巳の粘着質な話し方に多少辟易しながら三田村は頷いた。
「なぁ三田村ぁ。俺さぁ。あいりちゃんのすんごい写真持ってるんだよね」
辰巳は勝ち誇ったように携帯電話を取り出す。
あいりが自分よりも三田村に好意を抱いていることに気付いている辰巳は、自分の握っているあいりの秘密を三田村に見せつけたくて仕方がないのだ。
それがどんなおぞましい写真か知るよしもない三田村は、辰巳の話を軽く受け流すように聞いている。
「ふうん……お前ってそんなにあいりちゃん好きやったん?」
「なぁなぁ。見たいだろ?藤本あいりの写真」
「……俺はええよ別に。本人の顔毎日会社で見れるやん」
「いやいや、見たほうがいいって!お宝画像だからさぁ」
「いや……ええって」
「遠慮すんなよ…お前も興味あんだろ?あいりちゃんの裏の顔……」
「……もぅなんやねん!しつこいなぁ……あの子この前お客さんにもつきまとわれて困ってたんやで。お前もあんまりしつこくしなや!」
馴れ馴れしく肩にのせられた手を笑いながら払いのけたが、あまりにねちっこい辰巳の態度に三田村は軽い苛立ちを感じていた。
ファンらしき客に痴漢まがいの行為をされて泣いていたあいりの顔を思い出し、不愉快な気分になる。
辰巳も「あの手の客」と人種的には同類ではないかという気がした。
本人は嫌がっているのに、こういう粘着質な男ばかり引き寄せてしまうあいりがなんだか気の毒になる。