屈辱の苦情処理-2
尻の割れ目に指をぐいぐい押し込んでアヌスのあたりを強く圧迫してくるため、スカートと下着が尻の谷間にギュッと食い込んでしまう。
「……あっ……な…何を……」
白昼のフロアでの突然の痴漢行為に、あいりは驚きのあまり抵抗することすらままならない。
「……お…お客様っ……」
客が「白い」と言えばカラスも白くなるのが接客業の世界。
どんなに自分が軽蔑したくなるような相手であろうとも、客と販売員である以上、力関係は100%向こうが上である。
トラブルが起きた場合、どんなに客の言い分が間違っていても、まずは「申し訳ございませんでした」と謝るようにと研修でも叩きこまれている。
相手が客であるというだけで、あいりは咄嗟に大声をあげることをためらってしまっていた。
「俺さ……あんたのファンなんだよ……50000円でヤらしてくんない……?」
そう言うと男は、今度はあいたほうの手で正面から胸をわしづかみにしてきた。
「……やっ……」
無茶苦茶な力で胸と尻を揉みくちゃにされて、制服がくしゃくしゃに乱れていく。
真昼間のフロアでの思いもよらぬ破廉恥行為に、あいりは恐怖のあまり息も出来ずに身体を強張らせた。
「……なぁ……便所いこうぜ…ハァ…ハァ…」
男はあいりを壁に押し付けて、ついにスカートをまくりにかかった。
「……お……おやめ下さい!」
さすがにあいりは危険を感じ、男の手を思い切り振り払ってその場から逃げ出した。
身体がガタガタと震え、怖くて後ろを振り返ることすら出来ない。
バックルームへ逃げ込もうとスイングドアを押した瞬間、フロアに出ようとしていた三田村真吾と肩がぶつかった。
「あ……あいりちゃん……どないしたん?」
「……三田村くん……」
三田村を見上げるあいりの瞳からは大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちていた。
休憩室のソファで三田村が買ってくれたコーヒーを飲むと、ようやくあいりの気持ちも落ち着いてきた。
「……俺ら男には、そういう経験あらへんしなぁ……なんともよう言わんけど……ファンがつくくらい……あいりちゃん目立つゆうことなんちゃう?」
三田村は茶化すわけではなく、あいりの不安を和らげようとして努めて明るく言った。
実際、先ほどの恐怖感も三田村の優しい関西弁を聞いていると嘘のように薄れていくような気がした。
男性に恐怖感を抱いているであろうあいりに気を遣っているのか、1メートルばかり離れて座っている三田村の、ちょっと不器用な優しさがあいりの胸に染みた。
「今度そんなんされたら、おもっきり大声出したらええねん。お客さんでも何でもそんなん関係あらへんよ」
いつもは関西人らしく冗談ばかり言ってあいりを笑わせる三田村が、真剣に励まそうとしてくれているのが伝わってきて、あいりは温かい気持ちになっていた。
「せやけど……下の名前まで知っとったちゅうことは、誰かがそいつに教えよったゆうことやしなぁ。プライバシーに関わることは、聞かれても簡単に言わへんように通達回してもろたほうがええな……俺、総務課の主任に言うといたるわ」
テキパキと手帳にメモをとる三田村がなんだかとても頼もしく感じられて、あいりは改めて彼に惹かれている自分を感じていた。
「ほんなら……俺、戻るしな。今度もし危ない目におうたら俺の携帯鳴らしや。すぐ行ったるから」
三田村はあいりの表情が和らいだのを確認すると、持っていた缶コーヒーを飲み干してサッと立ち上がった。