非線型蒲公英-43
燐ちゃんの家は、新我が家から学校へと行く道の途中にある幅広な坂の一番上に居座る様に建っていた。坂の下からでもはっきり分かる程デカいお屋敷だ。庶民的畏怖を感じる。
「あ、わたくしは…ここで」
燐ちゃんが小さくお辞儀をする。
「んあ、ああ…じゃ、また学校で」
なんとなく今度から、お嬢様とでも呼んでみたくなった。
「はい…それでは、ごきげんよう」
そう言って、またお辞儀をして、粛々と坂を上って行く。燐ちゃんが見えなくなるまで、ずっと、俺はそこに突っ立っていた。
「あ、昨日何があったのか、聞き忘れた…」
まあ、いいか。コンビニ弁当を買って、さっさと帰ろう。
コンビニに行くと、意外な人物に会った。
「和馬…お前、もう平気なのか?」
レジに立っていたバイト中の和馬は、いつもよりやや青白い顔をしていたが、それ以外は特に変わりないように見える。
「聡、どうしたんだい? 聡の家からこのコンビニって近場じゃ無いのに」
俺の質問は無視かい。まあ、いいけど。
「俺、ここら辺に引越したからな」
「え…? い、いきなり引越しって…何があったんだい」
「説明が面倒だ。沙華ちゃんに聞いてくれ」
「何で…沙華?」
「はいはい、そんな事はどうでもいい、俺には姉さんの晩飯を買って帰るという使命があるんだ、早く会計を済ませてくれ」
「あ、うん…」
弁当を二つ買ってレジを済ませると、怪訝顔の和馬を置いてコンビニを後にした。
家に帰ると、靴が増えていた。しかも見覚えのある靴だ。
「…何でだ…?」
どうか違う人でありますように、と天に願いながら居間へと向かう。
が、そこに居たのはやはり俺の予想通りの人物であった。
「あ!! おかえり、聡君」
「何故、悠樹が…?」
「ああ、暇だったから呼んだの」
何様なんだ、我が姉は…。
「夕飯は幾つ買ってきたのかしら?」
「二つだけど…何? まさか…」
「それは、私と悠樹の分ね、聡も食べたかったらもう一度買ってきなさい」
横暴、ここに極まれり。あ…俺、今泣いてる…。泣いてるよ…。
「わ、分かった…うう…だから嫌なんだ…姉さんと暮らすのは」
それでも逆らえない自分が恨めしかった。
「さ、聡…また、何しに来たんだい?」
呆れた、というよりは驚いた感じで和馬が言った。ウルサイ…何度来ようが俺の勝手だろう…? うううう…。
「さっき買っていけば良かったのに…」
和馬は、俺が持って来た弁当をスキャナに通し、慣れた手つきでレジを打つ。
「一応、聞くけど…」
「いい、暖めない」
俺が先駆けて言う。
「そ、そうかい…? じゃあ、504円になります」
言われて財布を確認して、世界を恨んだ。
「和馬…金貸して…500円でいいから」
「わかったよ…」
和馬に金を借りて、俺は再度弁当を購入し、コンビニを後にした。絶っ対、間違っている…何かが。