非線型蒲公英-35
「これが、貴方達に与える機体『KY-03C レーヴェンツァーン』よ」
ドイツ語で蒲公英を意味するその名の如く、その機体は体育館の裏にひっそりと鎮座していた。
その様子に『わぁ…』と感嘆の声を上げる燐。
「これ、形とか、琴葉先輩のとは全然違うような気がするんですけど…」
確かに沙華の言う通り『キルシュブルーテ』と『レーヴェンツァーン』では、外観が全く別物であった。
「まあ、外装は違うけれど、基本フレームとジェネレーターは共通してるから、見た目ほど差は無いわ」
「…何だか、こっちの機体は『正義』っぽいですね」
『レーヴェンツァーン』の外装はトリコロールカラーで統一されており、見た目にも美しい機体であったため、妃依がそう感想をこぼしたのにも頷ける。
「しかし、これはどうやって操縦するんじゃろうか、琴葉先輩」
猛が、もっともな質問をした。
「ああ、それは問題ないわ。これを使いなさい」
琴葉が取り出したのはゲーム機のコントローラーのような物。もっとも、無線アンテナが立っているので、ラジコンの、と称したほうがいいのかもしれないが。
「上で前進、下で後退、まあ、後はこの表を見て覚えて頂戴」
と言って、妃依に一枚の紙を渡す。
「…ええと、左右、転回…平行移動…右手武装使用…背部武装、切り替え…ブースト移動…」
読んでいるうちに頭が痛くなってきた妃依は、早々に諦めた。
「…燐ちゃん、パス」
「え? は、はい…」
説明書を渡された燐は、律儀に読み始めた。
「成る程…ヒートシンクの性能を加味して銃火器系の武装や、ブースターはあまり取り付けられていなんですね…」
既に、操作説明ではなく、スペックを読んでいた。
「…燐ちゃん、凄過ぎ」
「燐ちゃんって、こういうの好きだからね…」
「あ、あの…琴葉先輩…先輩の機体の詳細スペックも拝見させて頂けないでしょうか…む、無理でしょうか…駄目ですよね…すいませんでした…」
言ってから、どんどん勢いを失っていく。そんな様子の燐を見て、フ、と不敵な笑みを浮かべた琴葉は、燐のほっそりとした首筋に手を添えて言った。
「構わないわよ? でも、燐。貴女がこういった物に強いなんてね…フフ、意外だわ」
琴葉の燐への好感度…22up。
「い、いえ、その、たまたま、き、興味があった、だけですから…」
琴葉に触れられていて気が気じゃ無い燐。
「まあ、貴女が機械に強そうだ、という事が判っただけでも、ただの暇つぶしが意義のあるものになったわ…そうね、今度から助手でもやって貰おうかしら」
琴葉の燐への期待度…35up。
「じょ、助手…」
琴葉が助手にしたいと言ったのだ。後は、何が何でも助手をやらされる事になるだろう。燐は軽く眩暈を感じた。
「はい、燐。『キルシュブルーテ』のスペック表よ。私は機体を表に出してくるから。貴方達は作戦を練るなり練習するなりしていて頂戴。試合は二十分後に始めるから」
そう言って、琴葉は踵を返し、体育館に入っていった。