非線型蒲公英-32
と、空中にフリフリのコスチュームを着た女の子の立体映像が出力された。この『ステッキ』…何所までオーバーテクノロジーが詰まっているんだろうか…。
『まずは〜、地面に『ステッキ』を付けて、螺旋を描くように回転しながら頭の上まで持ってきましょう!!』
お姉さんがいうと、映像の少女はそれに合わせるようにクルクルと回転しながら杖を動かした。
『後は、ビシッと目の前に『ステッキ』を突き出して決めポーズね!!』
片膝を上げて『ステッキ』を持っていない方の手の平を顔に交差させている映像の少女。
お約束っぽい。
『少しややこしい条件になったけど、ビジュアル的にはおねーさん大賛成よ!! ガンバ!! マスター!!』
声と同時に映像もフッと消えた。
と、まぁ、そんなこんなで、『魔法ステッキ』のマスターとなってしまった訳だが、極力使いたくは無かった。さっきも悠樹に散々懇願され、ライトを付ける為に渋々、思い出すだけで泣きたくなるような行為をしてしまったのだ。皆には耳を塞いで後ろを向いていてもらったが。
「…不便なのか、便利なのか…」
妃依は忌々しいモノを見るような目で、手の中にある『ステッキ』を見つめた。
「おう、着いたようじゃな」
猛の声に、顔と『ステッキ』を持ち上げる。光に照らされた見慣れたはずの校舎は、昼間とは違う印象を強く感じさせた。それこそ琴葉の言った通り、まるで『魔の巣窟』の様に見えてしまう。それは、琴葉が中で待ち構えているせいでもあるのだが。
「…行きますよ」
皆に語りかけると言うより、自分を鼓舞するためにそう言った。
「何だか、わくわくするね」
本気で楽しいと思っているのは悠樹だけだろう。他の四人は大小こそあれ、恐怖を隠しきれていなかった。
「わくわく、など感じられんわ…身震いがするわい」←小
「ほ、ホントに入るの…? うぅぅ怖いよ…」←中
「あああああ、わわわ、わたくしは…こここ、わくて…むむ無理です…」←特大
「…でも、燐ちゃん。一人でここに残っている方が、怖いと思うけど」←微小
全員が尻込みしていると、がしゃんがしゃん、と、校門の方から音が聞こえてきた。
「開かないよー…」
悠樹が校門相手に格闘している。
当たり前だが、校門は硬く閉じられていたのでビクともしなかった。
「…乗り越える…には、ちょっと高いですね」
「ワシ一人なら行けん事も無いが…上に立って引っ張り上げるには、ちと足場が無いからのう」
のっけから躓いた感じだ。手段が無い。
『困った時こそ!! 『魔法ステッキ』の力を使う時よ!! マスター!!』
「うわぁぁぁぁあ!!」
「いやぁぁぁぁっ!!」
いきなり杖から聞こえてきた声に、皆、意表を突かれて驚いた。悠樹だけはまだ、校門と格闘中だったが。
「…び、びっくりするじゃ、ないですか」
心臓を押さえて、抗議する。
『こんな時は、『アンロック』の魔法を使うのよ!!』
声の主は、ヘルプのお姉さんだった。
「…アンロック? 開錠?」
『とにかく、後先考えずにやっちゃえマスター!!』
終了。どんどん投げやりな解説になっていく。
「…ま、まぁ、この際、方法をどうこう言ってられないですしね」
妃依の中の何かが吹っ切れた。
「…とりあえず、皆さん、向こうを向いて耳を塞いでおいてください」
見せるのだけは無理であったが。
「…」
全員背中を向けて耳を塞いだのを確認して、妃依は校門に向き直った。
「…はぁ…ま、マジカル、カラミティー、じぇ、ジェノサイドパワー…」
クルクルと螺旋を描くように舞う。『ステッキ』の先端からは七色の光が零れている。
「…アンロック…」
杖を校門に向け、映像の少女がやっていた様に、決めポーズを取った。死にたくなるほど恥ずかしい。が、次の瞬間、そんな事を考えている余裕は無くなった。
キュイイイィィィィィィ…ン…ボゴォォォォォッ!!
『ステッキ』の先端に光が収束したかと思うと、その光が校門に向かって弾けた。
ドガァァァァァァァッ、ガラン、ガラン…。
行く手を阻んでいた校門は、正体不明の光学兵器によって30メートル程吹き飛ばされてしまった。
「…こ、これの、どこが『アンロック』…」
撃った本人が一番驚いていた。