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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英-20

「ところで、聡、お昼どうするんだい?」
 そう言う和馬の手には、毎度おなじみの和馬の母さんの手作りの弁当。
「は…? いや、俺は学食行くけど…って、今まだ三時間目の休み時間だろ?」
「いや、もう昼休みだよ。聡が起きないから、というか起こせないから、数学はずっと寝たままだったんだよ」
「ああ、アレのせいか…」
 天井のノズルに目を向ける。ふと、自分のカバンをごそごそと探り、何か包みを取り出した悠樹の姿を視界の端に捉えた。凄く嫌な予感がした。
「ねぇ、聡君。私、お弁当作ってきたの! 食べて!」
 俺にはそれが『死んで!』と聞こえた。
「いや、俺まだやりたい事いっぱいあるから」
「? 食べないの?」
「当たり前だろ、そんなの」
「うぅー! ひどい! 早起きして作ったのに…」
 こればかりは泣かれても譲れん…命を天秤にかけるわけにはいかない。
「聡が食べないなら、僕が食べてもいいかな?」
「和馬、お前…」
 いや、何も言うまい。知らぬが仏。後の祭り。
「この弁当、聡にあげるからさ」
 お前って奴は…いい奴だな…ああ、惜しい奴を亡くした。
「じゃ、有難く頂こう。ほれ、悠樹弁当」
 と、悠樹の手から掻っ攫った弁当を和馬にくれてやる。
「あーん、勝手に交換しないでよぉ」
「気にするな」
「あはは、悪いな、何だか」
 いや、俺はむしろ感謝しているぞ。
「悠樹さん、これ、頂いてもいいかな?」
 一応、了解を取る和馬。こういうところは律儀だ。
「うん、いいよぉ…どうせ、聡君は私の作った物、食べてくれないもん」
 そりゃそうだ。あの一件以来、コイツの作った物は食ってない。
「はは、聡は酷い男だからね」
 朗らかに言いやがった。
「はは、じゃねえよ!!」
「でも、本当の事だろう? ねえ、悠樹さん」
「うん、聡君、ひどいと思う」
 何で俺がここまで言われないといけない…。
「あー、うるせぇうるせぇ、いただきます!!」
 話を打ち切り、和馬の弁当を食べ始める。
「んぐ…相変わらず雫さんの料理は美味いな」
 雫さんとは和馬の母さんの事だ。そう呼んで欲しいと本人に言われたので、そうしている。
「そうかな? 普通だと思うけど」
「いや、手作り弁当の有難さを噛締めないお前は罰当たりだ…ああ、うめぇ」
「と言われても、毎日だと飽きるよ」
 そう言って、和馬も弁当に手を付けようとした。
「…へぇ、凄くいい匂いだね。料理得意なの? 悠樹さん」
「え? そんなことないよ、たまに作るくらいだよぉ」
「あはは、それは上手って事だよ。じゃ、いただきます」
 厚焼き玉子を口に入れる和馬。
「…」
「? 和馬君?」
 口に入れてからぴくりとも動かなくなった。表情も変わらず笑顔のままだ。
「…やはり、無理だったか」
「か、和馬君が固まっちゃったよぉ!?」
「ちょっと、脈を測らせてもらおう…駄目だ。止まってる」
 そう、悠樹の料理を食ったらこうなるのだ。だが、運がよければまだ助かるかもしれない。
「119だ!! 誰でもいい!! 早くしろッ!!」
 そして、程なくしてやってきた救急車に乗せられて、死の淵を彷徨っている和馬は運ばれていった。


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