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アイカタ
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アイカタ―――後編-9




ソファに座ったままじっと抱き合う男二人。


………こんなんしてたら完全に怪しい関係に勘違いされてまうやろな……。


そんなことをぼんやり考えながらゆっくり顔を上げると、数メートル離れた大理石こ柱の陰から、思いもよらない人物がすうっと現れた。



右手に大きな花束を持って、抱き合っているシーナと俺を凄い形相で睨みつけながら仁王立ちしているのは―――。


昨日別れたはずの真弓やった。



『………え?あれ何や?生き霊か?』


そう思った瞬間、真弓はつかつかとこちらに近づいて来た。


鬼のような形相の下で悩ましげに揺れるたわわなおっぱい。


その無邪気に弾むええ乳を見てるだけで、なんか知らん恐怖も薄らぐわぁ……と思った瞬間、でっかい花束で頭を思いっきり殴りつけられた。


「この……っ変態!大っ嫌い!」


ガサガサッという音がしたかと思うと、一瞬視界が全部緑色になって、花びらやら葉っぱやらがバラバラと辺りに飛び散った。


「いってっ!」


俺とシーナが同時に悲鳴を上げる。


「は……早とちりかと思て……反省したウチがアホやったわっ!」


「……ま……真弓っ………」


慌てて立ち上がった時には真弓は既に正面玄関のほうへと走り去っていた。


もうロビーにいるほぼ全員が完全にこちらを見ている。



キンスパを取り囲んでいたマスコミ連中の中の誰かが、真弓に向けてパッパッとフラッシュをたいたのがわかった。




「………なんやねんアレ。お前、真弓とケンカでもしたん?」


呆れ顔で言ったシーナの頭の上にも、雪が降ったようにカスミソウの花が散らばっている。


「ケンカも何も……昨日別れたんや」


俺は周りの視線を気にしながら小声で答えた。


「………は?別れた?なんで!?」


シーナが驚いて目を見開く。
―――ていうか声デカイわ!


「せやから……お前と……芸人やりたいし」


何故か異様に照れ臭くなってもごもごと口ごもったが、シーナは全く理解できへんという顔で俺の顔を見ている。



「へ?………ほんで?なんで真弓と別れる必要があるん?……え……おま……まさか……そういうつもりで俺のこと……」


「あ、あ、アホかっ!ち、ち、違うって!」

お前まで何言うてんねん!
少しは俺の覚悟察しろや!


「そうやなくて!………もし俺が芸人なったら―――本田鉄工、継げへんからや」


何かひどくカッコ悪いことを言わされてるような感じがして、必要以上にしかめっ面になる。



しかしシーナは相変わらずの呆れ顔。


そして次の瞬間、その口から驚くべき情報が発せられた。



「………お前それマジか?―――真弓の親父さん………お前が芸人目指してんの、とっくに知ってはるで?」



……………え?



俺の思考回路は、そこで完全に停止した。




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