アイカタ―――後編-7
悔しくて、悔しすぎて、涙は出なかった。
絶対に勝つつもりで、勝った時のことしか考えてへんかった俺は、途方にくれてロビーのソファに座っていた。
「――――ほい、コーヒー」
シーナが自販機で買ってきた紙コップのコーヒーを俺の前にトンと置き、隣にドカッと腰をおろす。
がっくりきている俺とは裏腹に、シーナのほうは意外にあっけらかんとしているように見えた。
優勝せえへんかったから、漫才への未練がふっきれたんか?
それともこのコンクール自体が単なる高校時代最後の思い出作りやったんか?
少し離れた場所では、キングスパイダーがカメラのフラッシュを浴びながらマスコミのインタビューに答えている。
誇らしげに頬を紅潮させてふんぞり返っている神谷を横目で見ながら、俺は深いため息をついた。
「ホンマ――――悔しいわ」
それ以上余計なことを喋ったら泣いてしまいそうで、ぎゅっと口をつぐむ。
「――まあなぁ。でも俺らアドリブのぶん時間オーバーしてたやろし、今回はしゃあないんちゃう?」
まるで他人事のようなシーナの口ぶり。
言いたかないけど……そもそも……アドリブふったのはお前やねんぞ。
なんやねん……この温度差は……。
俺はなんだか無性に腹がたってきた。
「あの……アドリブがなかったら……勝ってたかもしれへんな……」
最低だとは思いながら、言わずにはいられなかった。
「ああ―――せやな。せやけど俺、別にあれは後悔してへんで」
当たり前のような口調でいい放つシーナ。
なんでこんな噛み合わへんのや。
リベンジしたいって言うてたんちゃうん?
受験勉強の真っ只中にも忘れられへんくらい―――お前、ずっと漫才やりたかったんやろ?
「……シーナ……」
「…………ん?」
「お前にとって……漫才ってなんなん?」
「…………えっ?」
不自然に掠れた俺の声に、シーナが驚いたようにこちらを向いた。
「シーナは悔しないん?あんだけ必死で練習したんに……こんな負け方して……」
ずっとこらえていた感情が堰を切ったようにこみ上げてくる。
「……ケンタ……」
「俺らの……最後の………最後のコンクールやったんやで?お前は知らんけど……俺は……このコンクールに人生賭けてたんや!」
予定とは大分違ってしもたけど、かなり乱暴な方法で、俺はシーナに本心をぶちまけていた。
一瞬ロビーがシンと静まりかえる。
周りにいる他のコンビが、何事かとこちらを見ていた。