「ミチをはずれた恋」-2
家に帰るとジュン君がにこやかにキスして、わたしを迎えてくれた。
あー。なんて幸せなんでしょう。
ジュン君の夕食を作っている間、
彼の視線を感じる。
よし。今夜もカルビ焼いてあげよう。
栄養バランス考えて野菜もたっぷりね。
それにジュン君の大好きなカマンベールチーズっと。
自分はダイエットしているくせにジュン君の食事となると
どうもカロリーが高めになってしまう。
でも、わたしよりずっと大きなジュン君は
おいしそうにすっかり平らげてしまう。
その食べっぷりにわたしは完全に癒されていく。
なんて、気持ちがいいんでしょう。
大きなジュン君に抱きつく。
ジュン君も愛情を出し惜しみしない。
べたべたの二人。広い家に二人の息づかいが響く。
母が死んでからというもの
わたしはジュン君とふたり暮らし。
昼間わたしは会社に行き
ジュン君は自宅で好きな仕事をしている。
あるときは空を眺め
あるときは自分の来し方を思い出してでもいるのか
わたしには到底理解できない深い世界に入り込んでしまう。
しかし、一番の彼の仕事はわたしに愛され
わたしを愛してくれること。
彼と一緒なら冷たいベッドもすぐに温かくなる。
わたしは彼の頭を抱き
「ジュン君・・」と言う。
彼は深くもぐっていき、わたしの脚をそっとなめる。
温かく幸せな時間がゆっくり流れる。
幸せってガラスのよう。
どんなに大切に取り扱っても
ちょっとしたことでひびが入り割れてしまう。
だから、大切にしなくっちゃ。
医師はジュン君の診察・注射を終えたようだ。
待合室には静かな音楽がかかっている。
曲が変わり、わたしの胸はざわついた。
「瀬戸ジュンさまのご家族の方」
診察室に呼ばれた。
「瀬戸さん。落ち着いて聞いてくださいね。
まず、言っておきたいことです。
わたしの指示を守らずに
ジュンさんにまだ高カロリー食を出しているでしょう。
このごろの体重増加は急激です。
このような食生活は彼の健康に悪影響を及ぼすって
何度も何度もお話したでしょう?」
耳が痛い。
「腹部の腫瘍がとても早く悪化している。
残念ですが、心の準備をしておいてください。」
「え?先生。なんですって?」
「ですから、そうですね。あと1月くらいの命でしょう。」
わたしの血液は逆流し始めた。
「先生、何でも・・何でもおっしゃるとおりにします。
助けてください。どうか。お願いです。」
しかし、医師は冷静にたんたんと語った。
「最後まで家族として温かく接してあげてください。
心の絆を大切に。これからどんどん弱っていきますが
瀬戸さん、心を強く持って。」
わたしは言葉を失った。
「お大事に」
看護婦さんがわたしの目の中に光るものをみつけたようだ。
肩に手を置いて顔をのぞきこんだ。
「大丈夫?」