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「ミチをはずれた恋」
【コメディ その他小説】

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「ミチをはずれた恋」-1

トモは休まずに飲み続けている。
「あ、店員さん、カシスソーダもう1杯ね。
あとはフライドポテトとアスパラのベーコン巻きもお願い」
ダイエット歴3年の彼女がこのペースで飲むとは
よっぽどのことだ。長いつきあいの親友ならわかる。


「何があったの?話してよ。」
「いや。言えない。」
トモは長い髪の毛を指に巻きつけながらもったいぶっている。
話したいことでがあるから、わたしを誘ったんでしょ?
いつもながら、はっきりしない人だ。。
まあ、きっとそのうち、泣きながら真相を語るよ。
「それよりまあ子、旅に出ない?
温泉旅行なんかどうかな。紅葉も見られるかもしれないよ。」
「え。それはいいね。できれば行きたいんだけどね。
でもわたしにはジュン君がいるから。・・・知っているでしょ。」
「なによ。親友よりジュン君が大事なの?」
「一人にはできないよ。もう、若くないんだから、彼も。」
「へーそうかあ。まあ子もミチをはずした恋をしているんだもんね。」
「・・・も?今、『も』っていったね?
ということは今日のやけ酒の原因は失恋だね。
それもミチをはずした恋の。」
「まあ。そんな感じかな。」
トモは大きな目にみるみる涙をためて、
すぐに溢れさせてしまった。
そうだったのか。
最近、連絡がなかったのは
新しい恋をしていたからなのね。
それで、それはどうやらミチをはずした恋らしく。
そしてもう、それは終わったということなのね。

「わたし、もう生きていく意味なんてないと思うんだ。
だって、彼より素晴らしい人に、これから2度と出会うことはないって
わかりきっているんだから。
もう、彼とは2度と会えない。わたしのせいで、こんなことに・・。」
トモは頭を抱えて
「ごめんなさい。わたしが悪かったの。わたしが・・。」
と一人深みにはまっていく。
「何があったか知らないけど、また、いいこともあるって。」
「そんな気休め言わなくていいよ。まあ子。わかっているの。
彼との日々は最高に楽しかった。
こんな気持ちになれることはもう絶対にない。」
トモのかたくなな態度はわたしを少しいらつかせた。
楽しいことなんてこれから数え切れないくらいあるのに
どうしてそんなに否定的なんだろう。
そういえば、こんなこと前にも一度あったな。
あれは、トモの結婚式直前のキャンセルだったから、
痛いほど気持ちがわかったけれど・・。
今回は詳しい説明もできないような、ミチをはずれた恋らしいし。
そんな時間の無駄しているよりさっさと別れた方がいいに決まってる。
しばらくは辛いけど、そのうち忘れると思う。


トモの気分を紛らわせるため、共通の友だちの噂話と
最新のとっておきダイエット情報を気前よく教えて、
静かに秋の夜を過ごした。
腕時計を見ると21時半。
「ごめん。もう帰らなきゃ。
やっぱり温泉旅行には行けない。
ごめんね。付き合い悪くって。」
トモは黙って笑った。
「わかってるよ。ジュン君でしょ。」


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