今のままで...-4
10月も半ばになると、4人の間での呼び方も変わっていた。11月の初めにある学校祭の準備に忙しくなるなか、私達はクラスの催し物も無く、帰宅部だったのであまり関係が無かった。
珍しく和哉と二人で帰っていると、後ろから直輝が走って来た。
「あれっ?北原ちゃんは?」
「美咲は柏木先生に学校祭の英語劇の手伝いをするように頼まれて....」
私が答えると、
「残念だったなぁ和哉!」
直輝は和哉の背中を叩いた。
「俺は別に....」
「強がり言っちゃて!」
私がからかうように言うと、
「別に強がりじゃねぇよ!」
そう言って走って行った。
「北原ちゃん変わったよなぁ?」
直輝が呟いた。
「えっ?」
「悪い意味じゃ無くて!明るくなったって言うか....」
「そうよね!あの日美咲が言った...自分を変えたかったって言葉...あれ本気だったんだね!!」
「そうだな....和哉がそのきっかけになったんだな!」
「うん....」
「知ってる?北原ちゃんって最近俺のクラスの男に人気あるんだよ!」
「えっ?そうなの?」
「ああ...今さら気付いても遅いのに...」
「そうね....あァあ...どこかに私を好きになってくれる人いないかなぁ....」
私は空を見上げて呟いた。
「いるよ!」
「えっ?どこに?」
直輝を見ると
「ここに...」
直輝は自分を指差した。
「そんな事言って...私が本気にすると笑い物に仕様なんて....そんな見え透いた嘘に引っ掛かる訳無いでしょう!」
「えっ?バレてた?」
おどけたように話す直輝に、
「当たり前でしょ!」
そう言って早足で歩き始めた私には
「本気なんだけどなぁ....」
そう呟く直輝の声は聞こえ無かった。
コンビニで夜食を買って帰る途中信号待ちの交差点で不意に声をかけられた。
「直輝君!どうしたの?」
振り返ると、美咲が立っていた。
「夜食を買って帰るところ」
俺はコンビニの袋を美咲に見せた。
「北原ちゃんは今帰り?」
「うん....」
「遅くまで大変だね!ところでどう?英語劇は?」
「それが.....」
美咲は少し暗い顔をした。
「何かあったの?」
心配そうに聞くと、
「何故か主役に抜擢されちって....」
「北原ちゃんすごいじゃない!....あっそれで演劇部の連中に妬まれて....」
「そうじゃ無くて....演劇部のみんなは英語劇って聞いただけで尻込みしちゃって....それで私に....」
「それじゃ.....」
「なんでこうなっちゃったのかなぁ....私は英訳の手伝いだと思ったんだけどなぁ....私なんかに主役なんて出来る訳無いのに....」
美咲は夜空を見ていた。
「あれっ?北原ちゃん自分を変えたかったんじゃなかったの?前の北原ちゃんに戻っているよ!」
「えっ?」
美咲は俺の顔を見つめた。
「和哉と付き合い始めてから、北原ちゃんはすごく前向きになったよね!去年とは別人みたいに....」
「直輝君?」
「俺は北原ちゃんなら出来ると思うよ!無責任な言い方かもしれないけど、北原ちゃんは演劇部じゃ無いので、仮に失敗したって北原ちゃんの責任じゃ無いよ!北原ちゃんに主役を押し付けた演劇部の連中の責任だよ!」
「ありがとう!直輝君!なんか気が楽になった...」
そう言って美咲は笑顔を見せてくれた。