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〜吟遊詩〜
【ファンタジー その他小説】

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〜吟遊詩(第二部†旅立ち・試練†)〜-1

椿たちが去ってから数時間がたっていた。ユノは放心状態でその場から動かずに座り込んでいた。
朝日が顔を出し、オレンジ色の光がユノの剣に反射したとき、ユノは眩しさで意識を取り戻した。

「夜が明けたんだ…」
ユノは寝てないことを後悔した。
夜起こったことが夢であったとする、わずかな希望がないからだ…。
それどころか手の中に冷たい感覚を覚え、そちらに目を落とす…。
腕の中に冷たくなったじぃちゃんがいた。じぃちゃんの姿は若いままだった。
じぃちゃんを刺した感触が消えない。
悲しかった。
それでも涙は出なかった。自分が殺したのに。泣くことは出来なかったから。
ユノは人間の暖かみを帯ていないじぃちゃんを、じぃちゃんとして認識することが出来ず、「それ」として眺めていた。
どんなときでも人間の体はしっかり動く。ユノは無意識のうちに「それ」を自分の横によけ、教会に入った。少しして、再び現れたユノは手には半紙が握られていた。そして「それ」の傍らに座ると、血で真っ赤に染まっている剣を手にした。血は乾きかけてて、粘ついている。半紙でそれを拭うと、血はみるみるうちに拭かれていった。辺りには赤黒くなった紙が散らばる。
何でこんな時に、冷静に剣を拭いていられるのか…ユノ自身にも分かっていなかった。
ただ、血を半紙で拭うことはじぃちゃんが教えてくれたことで、少しでもじぃちゃんの面影に縋っていたかったのかもしれない。

 じぃちゃんは今、ユノがいる『インテリオ キングダム』という国から遥か遠く、東に位置している『ニホン』と言う小さな島国で生まれたと言っていた。昔はそれなりに栄えたらしいが…。ニホンには『ブシ』という人達がいて、ブシは戦いを終えた後、血で汚れた刀を半紙という紙を用いて拭くらしい。
でもじぃちゃんが生まれたときはもぅブシという人はいなかったと残念がっていた。
『ブシは男のなかの男じゃけぇ。』
じぃちゃんはそぅ言ってブシ道というのを説いていた。
ユノは剣を拭きながらそんな事を思い出した。
(ブシ道……)
ユノはすっかり綺麗になった剣をブレスレットに戻し、少しだけ考えられるようになった頭を働かせた。
(そーいえばじぃちゃんは言っていた…)
『ブシはどんな生き方をしたかは重要じゃない。どんな死に方をしたかが大事なんだ。散り際は美しくあろうとする…それがブシじゃ。』
(じぃちゃんは私が殺した…私が刺した…あの散り際は美しかった?)
何が罪滅ぼしになるのか…。
仇は…自分ではないのか…。
そんな考えが巡っては消えていった。

傍らにいる「それ」は血で髪の毛が額にこびりついてしまっていた。髪をなでて整えてあげる。
 ユノは教会の裏庭に「それ」を移動させ、組み木をし、火をつけた。インテリオキングダムを初めとする西洋系の国では死者はそのまま埋葬するのが普通だが、ニホンでは火葬が通常らしい…。生前、じぃちゃんは
『自分はキッスイのニホンジンだ。』
と豪語していたのでそれに従った。勢い良く燃える火に暖められていくじぃちゃんを見て、ユノはようやく「それ」ではなく、「じぃちゃん」に戻ったと思った。
安堵感が広がる…。
空にあがる煙を見ながらユノは思った。
(私は…私を知りたい。)
『あの本の通り、未来のために戦え』
じぃちゃんが死ぬ前に言った言葉を思い浮かべる。
(じぃちゃん、悪いけどその言葉…私が生きる言い訳にさせて…)

 じぃちゃんが燃えつきるのは長い時間かかったが、ユノはずっと側にいつづけた。そしてじぃちゃんの最後の創造物である日本刀を墓標とし、じぃちゃんの墓を作ると、旅立つ事にした。
必要最低限の物を鞄につめて準備をする。ユノは最後に道しるべになったあの大きな本を燃やした。持っていける大きさではなかったし、こうすることが賢明なんじゃないかと自然と思ったから。
じぃちゃんが死んでから二回目の朝日と同時にユノは未来のための戦いへ向かっていった。

場所は変わり…
《B・C(ブラインド・チェリー)総本部》
始めに総本部について少し説明しておくと、本部は時間と空間の狭間にあり、ユノ達が暮らす通常の世界とは切り離されている。
本部では1000人以上の人が働いていて、幹部の数十人を除く残りは普通の一般人で構成されている。B・Cは表向きは科学的研究所であり、研究員として働く一般人はブルーストーンだったり、メイン・ブロックだったりについては何も知らずに日々を送っているようだ。
時間と空間の狭間に行くには世界に散らばる10箇所程度の出入り口から入ることができた。研究員は通常の世界の会社に勤務していると思っているのでB・Cへの入り口は、通常の世界に普通に存在する会社のドアに時空を曲げる細工をし、そのドアをくぐるとB・Cに着くといぅ寸法になっている。しかし、B・Cに努めている者以外はたどり着けないようになっているので本当のB・Cの存在は誰も知らない…。


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