記憶-8
「キアルリア」
視線を落としているとギルフォード兄様が心配そうに声をかけてきたので、顔を上げて笑顔を見せる。
「逃げてばかりじゃ何も変わらないですね。今夜……兄上に直接聞きにいきます」
ラインハルト兄様の部屋の前で深呼吸する。
妙に緊張して足が震えるが、ここは気合いで乗り越えよう。
コンコン
「兄上、キアルリアです。よろしいですか?」
「……ああ……入れ」
返事を聞くと、部屋の前まで一緒に来てくれたギルフォード兄様をチラッと見る。
(ここで待ってる)
小さな声に頷いて答え、真っ直ぐに顔をあげて部屋に入る。
「失礼します」
部屋に入ると、まさかの光景に度肝を抜かれた。
ラインハルト兄様が部屋の真ん中で土下座をしていたのだ。
「兄上?!」
一国の王が土下座などありえない。
「すまなかった」
兄の声に我に返り、慌てて側に駆け寄る。
「兄上っ!頭を上げて下さい!王がそんな事を軽々しくしてはいけませんっ」
「いや、お前に合わす顔がない」
そんな事を言われても困る……これでは話が出来ない。
「とにかく頭を上げて下さい!」
「何事だ?!」
部屋の前で待っていたギルフォード兄様が、中の様子がおかしいのに気づいて入ってきた。
第三者の介入にホッとする。
「……何やってんだ」
「謝っている」
「いや、見れば解るが……とりあえず頭を上げろ、キアルリアが困っている」
ギルフォード兄様も呆気にとられているようだ。
のろのろと頭を上げたラインハルト兄様と目が合う……が、すぐさまそらされた。
今更ながら、なんだか腹が立ってきた……無駄に緊張した時間を返してほしい。
とりあえず座ろう、ということになり3人ともソファーに座る。
ギルフォード兄様がお茶を淹れてくれたが飲む気にはならない。
「ラインハルト兄様……謝る、という事はご自分が何をなさったか、わかっておいでなのですね?」
誰かに操られたとか、そそのかされたとかではなく。