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続・せみしぐれ〜color〜
【その他 官能小説】

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続・せみしぐれ〜color〜(後編)-11

「おぉ、賑わってるな」
いつもは凛とした静寂に包まれている聖域が、今夜だけは、赤や黄色の灯りで眩しい。

「すごい人だねぇ」
小さな町だから…と、予想していた規模をはるかに上回る混雑ぶりだった。
「この町の人間、全部集まったみたいな感じだな。後からおっちゃん達も来るって行ってたし。…出店、見て回り…ますか?」
「――プッ!なんで、敬語なの?」
「いや…なんとなく」
何を照れているのか、やっぱり歯切れの悪い相模くんの後について、私も人の波に溶けた。

「――痛っ!」
あぁ、またぶつかった。
人より小柄なこの身体は、さっきから、すれ違う人たちにもみくちゃにされ続けている。
おまけに、流れに埋もれてしまうから、前を歩く相模くんにはぐれないよう付いていくのも一苦労だ。

「――掴まって」
「はい?」
急に立ち止まり、相模くんが左手を差し出した。
「ちっちゃいし、危ないし…。はぐれても困るし」
視線はこちらを見ないまま、そう続ける。

(…とは言っても)
ど、どこに掴まればいいというの?
腕は…組んだら親密すぎるでしょ。
手は…デートみたいで図々しいよね。
恋人同士じゃ、ないんだし…。

迷うこと数秒。
結局、私がそっと触れたのは、彼の浴衣の袖だった。
一瞬、戸惑ったような表情をした彼も、そのまま再び歩き始める。

(ずいぶんゆっくり歩いてくれてるなぁ…)
すれ違う人の群れから、さりげなく私をかばうようにして、隣を歩く相模くん。

子どもだとばかり思っていたから、一緒に過ごす時間も、私は、どこか弟とふざけているような感覚を楽しんでいたのだけれど…。

見上げれば、凛と前を見つめる背の高い横顔。
時折、髪をかきあげながら、そうして、心配そうに私を振り返る。
(子ども…ではないんだよね…)

けれど。
濃紺の浴衣に包まれたその身体は、細身で薄くて。
まだ、完成された大人でもないことを実感する。
少しずつ、でも、日々刻々と変わり続ける、未完成な『少年』という存在。

――この子は。
その胸に、若くて可愛い女の子を抱きしめたりするのかな。
その腕は、愛しい誰かのものなのかな。

…高校生だもの。
彼女くらいはいるかもしれない。
遠く離れた東京で、『誰か』が彼の帰りを待っているのかもしれない。
それは、何ら不思議ではない当たり前の現実。

それなのに、どうして私の胸はチリチリと痛むの?

「――松下さん!」
「えっ!?」

びっくりした…。
考え込んでいたら、呼ばれているのも気付かなかったみたいだ。


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