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家庭教師
【同性愛♂ 官能小説】

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第一章「誘惑」-1

第一章「誘い」

「こんな格好、初めてだから、なんだか恥ずかしいです。みんなジロジロ見てるみたいで……。変じゃないですか?」
「大丈夫。みんなが見るのは、シノブが可愛いからだよ。正直俺は、自慢したい気分でいっぱいだ」
 これは本音だ。シノブは実際にかなり可愛い。アバタモエクボというが、ヒイキ目だと思いつつ、俺は顔がだらしなくニヤけてくるのを抑えるので精一杯だった。
 春を迎えるには若干早い三月上旬。俺とシノブはレンガ敷きのショッピングモールを歩いていた。道の左右には街路樹が植えられ、曲線を多用したアールヌーボーっぽいデザインのベンチが街路樹の下に並んでいる。車の入って来られない歩行者専用のモールなので、俺たちは道の真ん中を歩いていた。
 シノブは明るいグリーンのゆったりとしたワンピースに、茶色のブーツを履いており、白のキルティングコートを着ている。肩には可愛らしいピンクのショルダーバッグを提げていた。
 それに対して俺はデニムパンツに黒のシャツ、グレーのPコートというシンプルな格好だった。
 俺とシノブは先生と教え子、という関係だ。だが、学校のではなく塾のなので、問題は無い。……無いはずだ。
 背格好について言うと、シノブは身長がおそらく百五十センチ台前半。俺が百六十五センチで、世の男性平均から見ると小柄で、しかも童顔だから、十歳以上離れているカップルには見えないだろう。今日のシノブの格好なら、せいぜい大学生と女子高生の組み合わせといったところだ。
 恥ずかしげなシノブの手を握ると、少しはにかんだ笑顔で返してきた。
 か、可愛い。この場で抱きしめたくなる。
 理性という堤防が、溢れる煩悩で決壊する直前になった俺は、素数を数えて落ち着きを取り戻した。際どいところで水位が下がる。
 俺はシノブの半歩前を歩いて手を引いた。
 今日は映画に食事、カラオケといったデートの定番コースだ。

 ***

 俺は中学生を対象とした学習塾で講師をしていた。最終目的はもちろん高校入試だが、頭に「必勝!」などと書かれた鉢巻を締め、キリキリと必死になって勉強をさせるような大手とは違い、俺が教鞭を取る学習塾は比較的ゆったりとしたペースで進めていくのが方針だった。主に基礎学力をアップさせることを目的としているので、生徒が通う学校の教科書をベースに、予習復習プラスアルファといった授業内容だった。
 三年の前半で生徒の学力を元に受験先のアドバイスをするが、ここで少し上のランクを薦めた上で、無事合格させる。一応、教え方にこの塾独自のコツらしきものはあるが、どこでも似たような事はやっているだろう。塾長が本を出せば、ダイエットのように「○○メソッド」などと呼ばれるかもしれないが、塾長にそういう野心は無いようだ。塾の経営者、というよりは本当にタダの教育者、といった姿勢の彼女を俺は尊敬している。
 生徒に無茶な学習や受験をさせず、しかも第一志望への合格率は非常に高いので、特に広告を打たなくても口コミで十分に生徒は集まった。
 シノブはそんな生徒の一人だった。
 俺の勤める塾は、入塾から受験終了まで、基本的に一人の講師が担当に付くことになっている。シノブと出会ったのは中学二年の半ば、夏休みに入ったばかりの頃だ。シノブが入塾してからは、もう一年半以上になる。
 長い睫。色白の肌。ハッキリとした目鼻立ち。歳相応に黒くてサラサラとした髪がとても綺麗で、「先生?」といいつつ振り返った瞬間に髪が後を追う様に、俺は何度もハッとさせられた。
 今でも俺は、シノブを初めて見た瞬間を思い出せる。一目惚れ、というのはそれまでの俺にとってファンタジーでしかなかったが、シノブに出会ってから、それはあっさりと現実のものとなった。
 だが、二十代も後半になると、さすがに理性が感情を上回る。時々怪しいが。なにより、社会的な立場が俺を常識のエリアに踏みとどまらせていた。
 シノブはそうではなかったが、生徒の方でも結構マセたのが居たもので、そういった年齢に見合わないセックスアピールをしてくる生徒をあしらう術も覚えて久しい。
 シノブに魅力を感じつつも、表面上、俺はタダの講師としてシノブに接していた。



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