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魔の子
【ファンタジー その他小説】

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魔の子-1

「アルヴィス・レイス様」

盗賊ギルドの落ちこぼれであるアルへの記念すべき初依頼は、こんな書き出しだった。アルは思わず手紙を持つ手を止め、今までを振り返る。
 ギルドに入ったのが4年前、10歳のときだった。同期である仲間たちは次々と依頼をこなしていき、最低ランクであるEクラスにとどまっているのは、今やアルだけとなった。が、しかし。
「ついに俺にも依頼が来たんだなぁ…」
両腕でその白い封筒をしっかりと胸に抱き、目を閉じて溜息を一つ。夜の海のような深い蒼をした髪が、その溜息に併せて揺れる。その格好のまま、約3分。髪と同じ、深い青の瞳を開くと続きを読み出す。
「え〜っとぉ?『以前から街に出没していた魔の子を捕らえました。街外れの工場に閉じ込めてありますので、退治をお願いします』…か。って、魔の子って何だ?」
実はギルドでも最大の機密であるその疑問を自分に投げ掛けるが、当然答えが出る訳が無く、ムシャクシャしながら家を出る。

ギルドの大講堂前に着いたアルは、すっかり枯れた落ち葉を掃く老人に話しかける。
「アウルじーさん、魔の子って知ってる?」
 深い皺が刻まれた顔からは想像もつかないが、彼、アウレリオはギルドの長である。盗賊としてのスキルは歳を重ねるごとに落ちて行ったが、その知識は尚も健在だ。だからこそ、アルは彼に聞いたのだが…。
「聞いたこともないのう。…それがどうかしたのか?」
そう返事をしながら、アウルは花壇を囲むブロックに腰掛ける。もうすぐ講義が始まるにも関わらず、アルもその隣りに座った。
「今日、やっと俺にも依頼が来たんだ。それが『魔の子を殺して』って依頼でさぁ」
無邪気に話すアルをみて、アウルの心が痛む。

(本当のことを言った方が良いのではないか?)

そんな思いが頭をよぎるが、アルの嬉しそうな顔は、その思いを消してゆく。
「んで、アウルじーさんに聞こうと思ったんだけど…」
「そう気にすることはないさ。聞いたことがないのなら、そんなに強くないのだろうよ」
無難な回答だ、とアウルは思った。しかし、
「じーさん、なんか隠してる?…なんか変だよ?」
子供ならではの直感が為せる技であろうその質問には、1万人の盗賊をまとめるアウレリオも驚いたが、態度には出さない。
「隠し事などありゃせんよ。初依頼への緊張で、神経が過敏になっておるのじゃろう」
そう言って、笑顔を見せるアウル。アルも納得した様子で立ち上がると、
「そうだな。じゃ、アウルじーさん、今度また俺の武勇伝を聞かせてやるから!!」
そう言って、講堂へと入っていった。

(すまん、アル…。本当にすまん…)

アウルはうつむき、少年の笑顔を思い出していた…


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