異界幻想ゼヴ・ヴィストラウレ-3
「バランフォルシュの苦痛がどのくらいで起こるのか、確かめる意味合いもあります。もう少し動いてみてください」
深花の要請に、沈黙を守っていたフラウが動いた。
腕を掲げ、この場に大量の水を召喚する。
『おっと』
それを見て、レグヅィオルシュが炎を召喚した。
びり、と体の中に震えが走る。
『あたしにも付き合ってもらうわよ』
『そいじゃ俺は見物させてもらうかな』
その身に風を纏い、カイタティルマートは上空へと逃げる。
マイレンクォードは水の錐を形作ると、レグヅィオルシュに向けて打ち込み始めた。
『おわったったったっ』
剣に炎を纏わせ、レグヅィオルシュは水の錐を捌く。
「あ……」
ずぐ、と体の中に衝撃が走った。
神機にエネルギーを供給する時の感覚である。
バランフォルシュに貯められたエネルギーが自分の中を循環し、外に出ていく。
「……!」
最初は、見間違いかと思った。
しかし、見間違いでも錯覚でもない。
バランフォルシュ内部の筋肉が、蠕動を始めていた。
ぼろりぼろりと、筋肉が震えながら壁から剥がれ落ちていく。
剥がれ落ちた筋肉は自らの意思があるかのように頭をもたげ、深花を囲み始めた。
「これは……!?」
滑らかだったはずの触手の表面は、細かい刺がささくれ立っている。
まるで、肉を掻き取る鞭のように。
「あ、ああ……!」
初代を殺した苦痛が、再現されようとしていた。
『嫌あああああああっ!!』
深花の絶叫は三人だけでなく、居合わせた全員に聞こえた。
「何だっ!?」
地に伏して暴れ回るバランフォルシュから妻をかばって後退しつつ、ユートバルトが叫ぶ。
「初代を葬った苦痛のようですな」
ガルヴァイラが、苦々しげに言った。
「ザッフェレル。曹長と連絡がとれるかね?」
ガルヴァイラの前に立ち塞がったザッフェレルは、何秒かしてから首を横に振る。
「無理ですな。曹長が、吾輩に心を閉ざしています」
「我々の考える事は、三人も実行しているだろう。さて、次の手は……」
呼び掛けて応答がないのなら、実力行使だ。
『ティトー、フラウ!バランフォルシュを抑えろ!医療班、待機を解除!応急処置に備えろ!』
ジュリアスが指示を飛ばし、二機はそれに従った。
暴れるバランフォルシュを両脇から挟んで、地面に押さえ付ける。
そして、レグヅィオルシュが目の前に立った。
『それ以上痛い思いはもうないだろう。すぐ済むからな』
レグヅィオルシュの手が、バランフォルシュの背に向かって打ち下ろされる。
最強の攻撃力はバランフォルシュの背を突き破り、外装を破壊しながら内部へめり込んだ。
すぐに白い筋肉ごと、血まみれの肉体が掬い上げられる。
カイタティルマートが僅かにたじろいだのが、ザッフェレルに見えた。
搭乗者のいなくなった機体は、燐光を発して消える。
『医療班、担架!』
ジュリアスの号令により手早く担架が広げられ、レグヅィオルシュの手に掴まれた肉体が横たえられる。
その場にいた全員が、あまりの惨状に絶句した。
体の表面には何かが潜り込んだような穴が無数に開き、血が溢れ出している。
何とか無事な部分も同じ物が擦り取ったらしく、医療班のメンバーは肌と呼べる物が確認できなかった。
「うっ……!」
穴の一つから、何かが飛び出てくる。
それは細く長く、表面は無数の刺でささくれ立っていた。
シルエットはともかく、地面に落ちてぴくぴくと震えている様はまるで寄生虫のようである。