異界幻想ゼヴ・ヴィストラウレ-10
その日の夜。
一体どう切り出すかと思い悩んだ揚げ句、深花はストレートに切り出す事にした。
「あのさ……ジュリアス」
帰り支度を始めていたジュリアスは、深花の声に手を止めた。
「何かし忘れた事があったか?」
「ううん、そうじゃなくて……」
深花はそっと、ジュリアスの手を取る。
「……泊まっていかない?」
ソフトに誘うと、ジュリアスは笑い出した。
「なんだ、一人で寝るのが恐いのか?」
「そうじゃなくて……聞いちゃったから」
ぴた、と笑い声が止まった。
「聞いたって……何を?」
「その……お風呂場の」
腕に体を押し付けると、ジュリアスが怯んだ。
「私にできるお礼なんてたかが知れてるし……せめて」
体を振り払われ、深花はベッドの上に投げ出される。
「馬鹿言うな!」
自分の下衆さを見透かされたような気がして、ジュリアスは怒声を上げていた。
「馬鹿ってなによ!?」
「俺がそういう事を望んでっ……いや確かに望んでるが!」
拒否されて怒りかけた深花は、それを聞いて怒りも吹っ飛ぶほどに吹き出した。
「し……正直者っ!」
腹を抱えて笑ってから、ジュリアスに向かって手を差し延べる。
「あなたとだったらいいよ」
「深花……」
ごく、と生唾を飲み込む音が聞こえる。
葛藤と戦っているのか、ジュリアスの荒い息遣いだけが室内に響く。
やがて折り合いがついたらしく、ジュリアスは深花を抱き締めた。
「……後悔しねえな?」
「するんだったら最初から誘わな……」
皆まで言わせず、ジュリアスは唇を塞いだ。
久しぶりにそういう目的で触れた喜びからか、頭の中が陶酔でくらくらする。
「……遠慮はしねえぞ」
「ん……もちろん」
誘惑に負けた己の弱さを恥じながら、ジュリアスは自分を止める事を放棄した。
「包帯……解く?」
「いらねえ」
頬に唇を落としながら、深花を抱きすくめる。
「あ……」
頬から額、耳、首……届く範囲に、鼻と唇が押し当てられる。
荒い息遣いから、ジュリアスがどれだけ興奮しているのか窺い知る事ができた。
「ん」
唇が重なって、舌が乱暴に口腔へ入ってきた。
深花の舌を吸いながら、ジュリアスは服に手をかける。
引きちぎるような勢いで服を脱ぎ脱がせると、ジュリアスはまた深花を抱き締める。
華奢で柔らかくて温かくて、自分の心を捕らえて離さない存在。
「……よくここまで回復したな」
届く範囲に唇をつけながら、ジュリアスは囁く。
「ん……自分でも不思議」
囁き声に反応して思わず男の体に爪を立ててしまい、ジュリアスに笑われてしまった。
「そういえばお前、耳とか妙に嫌がるよな」
「だってくすぐった……ひゃっ!」
耳の穴に指を突っ込まれてしまい、深花は悲鳴を上げる。
「知らねえのか?くすぐったい所はイイ所だって」
同時に耳元へ囁きかけられ、深花はぶるぶると震えてしまった。
「まだそういう関係でもないし遠慮してたけど、開発してやろうか?」
「そ、そんなの……あぅ」
耳たぶをついばまれ、思わず声を出してしまう。
「今夜は遠慮しないって宣言したんだ。思いっ切りヤらせてもらうからな」
「また耳ぃ……」
囁きかけられた耳側の肩が、ぴくぴくと引き攣れる。