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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヴィストラウレ-9

「いやだって、ねぇ……?」
 ころころと笑う様に、ジュリアスは一瞬目を伏せる。
 打ち明けるべきではなかった気が、ひしひしとする。
「ティトーさんとも、その頃からの知り合いなの?」
「あー……そうだな。ティトーとの付き合いは、もう八年になる」
 その口調は、昔を懐かしむ気配が溢れていた。
「友達になりたての頃、最初はビビったぞ」
 髪をタオルで包むと浴槽から深花を引き上げ、ジュリアスは体を擦り始めた。
 惚れた女を自分の手で磨く作業は、実に楽しい。
「あいつ今ほど性格が丸くなかったし、割と早めに告白されたからなぁ」
「告白?」
「ああ。俺は男も女も愛せる質だけど、お前の事は恋愛対象にはならないから安心しろってな」
「あぁ、そっか……」
 背中を流してから、前を向かせる。
「そういえばお前、よく普通にティトーを受け入れたな」
 肌理細かく張り詰めた滑らかな肌を、ジュリアスは賞賛の目で見つめた。
「フラウさんの後でティトーさんの事を知ったもの。それに、同性や両性をそういう対象にする人がいる事だけは知識として知ってたし」
 悔しいが、クゥエルダイドが深花に執着した理由がよく分かる。
「知っている事と実践する事は、けっこう隔たりがあるぞ。しかし、なるほどな……」
 華奢な首や鎖骨を撫でるように洗いながら、ジュリアスは納得した。
 深花をこっちに引き込んだのは自分だが、バランフォルシュがどうして深花から位を取り上げずに神機チームに放り込んだままにしているのかと不思議だった。
 はっきり言って深花の気性は、軍人には向いていない。
 向かないなりに訓練に食いついて追いつこうと頑張っているが、埋められない距離というものはある。
 だいたい、敵を殺すというのがどういう事なのかをまだ分かっていない。
 しかし、その優しさや寛大さなど内包した資質はバランフォルシュにぴったりなのだ。
 自分の短気っぷりがレグヅィオルシュに気に入られたように、バランフォルシュは深花のそういう面を愛しているのだろう。
「……さ、終わりだ」
 体を洗い終わると、ジュリアスは立ち上がった。
「上がる時には呼べよ」
「ん。ありがと」
 再び浴槽に体を沈み込ませた深花は、鼻歌を歌いながらお湯を楽しみ始めた。
 平静を装って出入口のドアを閉めてから、ジュリアスはずるずるとへたりこむ。
「ちっくしょう、きついなぁ……!」
 抑えても抑えても、欲望は高まって衝動は全身を貫く。
 惚れた女の濡れた生肌を見て、興奮しないでいる不健康な精神も肉体も持ち合わせてはいないのだ。
 ただ、自分のせいで負傷した女を相手にこれほど下衆な感情を抱ける人間だった事に自己嫌悪が溢れて止まらない。
 そんな呟きを感覚が鋭敏になっている深花が、聞き逃しているわけがなかった。




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