ラプソディー・イン・×××-5
「ん…」
「あ、気づいた。大丈夫か?」
目を開けると鏡の天井と、心配そうな課長の顔。おでこには冷たいタオル。
「イッたと思ったら気失うからびっくりした。ごめんな、無理させちゃったな。」
どうやらアルコールと強い刺激とお湯でのぼせてしまったらしい。
「すみません…」
「いや、謝るのはこっちのほうだよ。少し水飲んだほうがいい。」
そういうとベッドサイドのペットボトルの水を口に含むとそのまま私の唇に重ねる。口移しなんて初めてで驚いて少しこぼしてしまうと課長は苦笑いしながら拭いてくれた。
「自分で飲むか?」
「はい。」
身体を起こすのを手伝って、支えてくれる。ペットボトルを受け取ると、少しずつ飲み、再び横にならせてもらう。課長は、ずれてしまったおでこのタオルを取ると洗面台でゆすいで冷やしてもってきてくれた。
「気持ちいい。」
タオルの冷たさにそうつぶやいて目を閉じると、
「だから高木は隙がありすぎるんだって。」
苦笑しながら課長が今日3度目の台詞を口にする。
「へ?」
「へ?じゃない、まったくこの娘は。この状況でそんなうっとりした表情で気持ちいいだなんて。」
呆れたように呟きながらも、優しく頭を撫でてくれる。
抱き締められて胸に顔をうずめさせられた状態になったせいで、課長の表情は見えない。
「ほっとけないよ、危なっかしくって。でも年甲斐もなく、冨田にも嫉妬してみっともないな。」
「嫉妬…?」
自嘲気味に笑う課長の言葉を聞き返す。
「あぁ。今日はそのまま家に誘うつもりだったけど、あのまま冨田とラブホ行っちゃうんじゃないかってヒヤヒヤしてた。」
「まさか。冨田くんに万が一誘われるようなことがあってもついて行きませんよ。」
「あぁ。でもこんなヨレヨレなバツイチオヤジよりも歳の近い冨田のほうがバランスいいんだろうなと思ってさ。でも高木を手放したくなくて、こんなところに無理矢理引き連りこんで、おまけに具合まで悪くさせて申し訳ない。」
「課長…。確かに行き先は伝えてくれなかったけれど、ついてきて一緒にここに入ったのは私の意思です。無理矢理なんかじゃないです。」
思い切って課長の胸から顔を上げて課長の目を見る。
「冨田くんたちと話していた時、課長とこういう所行ってみたいなって思っていたんですよ、私。でも自分からそんなお願いできないし。だから今日こういう所連れてきてもらってちょっとうれしかったです。確かにびっくりはしましたけど。体調悪くなったのだって課長のせいじゃないし。」
反論する私を課長は再び優しく抱きしめてくれた。