〜吟遊詩(第1部†序言・運命†)〜-9
椿に捉えられたユノを見るとじぃちゃんは慌ててそちらに走り出した。しかし丁度サンが行く手を阻む。
「どいてくれっ」
じぃちゃんはサンに懇願した。
「でも僕はあなたを止める役目です。ユノは椿さんが操って本部へお連れします」
サンの丁寧な言葉遣いは逆に神経を逆撫でした。
(クソっ…やっぱりそーゆーことか…)
じぃちゃんは焦っていた。ブレッドの際限はあと10分程度になっていた。背に血で描かれた十字架は時間が流れる度に薄くなっていく。それがブレッドが尽きる目安だった。もはやサンと言い合う暇もなかった。
(さっさとサンを殺ってしまおう。)
じぃちゃんは仕方がなくそぅ決めた。手の中で素早く武器を練り出した。
(これが練り出す最後になるかもしれんな…)
じぃちゃんが最後に選んだ武器は日本刀だった。激しくぶつかり合う二人。日本刀独特の重い金属音がなり響く。その激しさは嵐のごとく、その速さは風のごとし…。じぃちゃんの長い日本刀が不利になることはなく、コンパクトにサンを狙って動き回る。お互いの攻撃を致命傷になる寸前で交し合う。サンは向かってくるじぃちゃんを炎で攻撃するものの、決定的な一打を撃てずにいた。
(じぃ様はもはや死ぬことを恐れていない。じぃ様の攻撃を避けていては永遠にじぃ様に傷を負わせることはできません…しょぅがないですが…)
サンは動きを一瞬緩めた。そこに此処ぞとばかりにじぃちゃんが向かってきた。日本刀は唸りをあげてサンの腹をめがける。
━━次の瞬間。
━『ズシュッッ…』━━
肉を突き刺す鈍い音がした。
サンの背中から赤く色ついた刀が現れた。
刀は獲物を捕えて満足そぅに不気味な光を放った…。抜き取ろうとする刀をサンが強く握った。意外なサンの行動にじぃちゃんは目を見張る。
「お前…ワザと!?」
刀ばかりでなく手まで捕まれたじぃちゃんは身動きが取れなくなってしまった。サンの口元が緩む。
「ぴんぽーん…僕の作戦でした☆」
(謀られた…最初からユノを操る気なんて無かったんじゃ…)
サンの刀を握り締める手から血が溢れた。
(ブレッドが身体中から抜けていく。僕も一気に限界まで行きそうだ。)
突然サンが叫んだ。
「椿さん!!!!!風をっ!」
その声に椿が気付いた。と、共にユノもその以上な光景に気付く。
「じぃちゃん?なんか変…?」
傍らで椿が声とは似つかない高い音を出す。すると、サンの周りから大きな風が空に向かって吹き出した。サンは身体中から炎を燃えあげる。
その炎と風はやがて一体化し、竜巻のように渦を巻き始めた。じぃちゃんとサンはそれに一緒に飲み込まれ、浮き上がった。遠心力に押されてじぃちゃんはサンから逃れられなくなってしまった。
サンは自分の体から刀を抜き取るとそれでじぃちゃんを切りつけた。
抜いた跡から血が吹き出す。誰の血なのか分からないほど吹き出す血でお互いを赤く染めあげていく。やがて炎と風、どちらが先とも無く収まってきた。じぃちゃんを抱えながらサンが地上に降りた。
「っ椿さん…」
サンは細い声で言った。サンは限界に近付いていて、じぃちゃんは生きてはいるもののすでに動けなくなっていた。
「よくやった」
椿はサンの言いたいことを察しそぅ言うと、ユノを強く一発蹴り、じぃちゃんの元へ行った。サンはじぃちゃんから離れると、椿に変わってユノの側にきた。サンは肩で僅に息をしているだけだった。流れる血はいつまでも止まらない。ユノは逃れようとしたが、
(さっき蹴られた足が…!!)
動けなかった。ユノが考えを巡らせていると何処からともなく音が聞こえた。
椿が歌っていた。
それは歌詞のない、当に音だけのものだった。鳥のサエズリでもなく、空気のうねりでもなく、雲の動きのよぅな…月の輝きのような…そんな心に響く、切ないような歌だった。
不意にサンが話しかけてきた。
「…綺麗でしょー?」
ユノは嫌悪で眉をしかめた…。
「ぅっ…あぁーやめっ…ろ……」
じぃちゃんがうめき声をあげた。じぃちゃんの額にはじぃちゃん自身の血で書かれた、音符の印が現れていた。動けないほどの状態だったじぃちゃんが歌で操られるにつれて少しずつ生力が蘇ってきた。しかしこれは一時的であろぅ…ユノを殺すまでの。。。
「やめろっー…ぅう…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だー!!!」
気が触れてしまったのかと思うくらい何度もじぃちゃんは繰り返す。しかし抵抗も虚しく、
「殺れ……」
椿がじぃちゃんに言った。ユノは自分の目が信じられなくなった。じぃちゃんが自分をめがけて攻撃しようとしてくるのだ…。
「じぃちゃん…気をしっかりもって!!」
「頭ではねぇ、分かってるんだよ…でも体が言うことを利かない。それだけ…」
サンが絞り出した声で説明した。逃げたくても逃げれない…手には自分の剣が握られていたが、じぃちゃんを攻撃するなんてもっとできなぃ…。
「刺し殺せ…」
椿が更に命令を下す。
ユノが剣を握ったまま、その上からじぃちゃんが剣に手をかけた。