〜吟遊詩(第1部†序言・運命†)〜-8
ホントはよく分からなかった。でも戦えば分かってくるだろう。そんなことより…
「そんなことより、覚悟って何?」
「案ずるな。生き残ることだけが勝つことではない…が、ユノだけは守るから。必ず無事に旅立たせてやる。本は読んだのじゃろ?」
「ぅん…って私のことじゃなくて!!」
「ワシはさっきユノに助けられたさ。それで充分」
じぃちゃんがたしなめるよぅに言った。
(納得いかない…じぃちゃんは死んでもいいと思ってるの!?ぅぅん。絶対私が守って私の運命から解放してあげる)
と、ユノが決心を固めていると、じぃちゃんが喝を入れた。
「ユノ…お前、ワシの足手まといになりとぅなかったら剣をふれっ!!」
「…(怒)……分かってるよ…やられっぱなしじゃ気が済まないし。」
一方…━━━━
「おぃッ!サン…」
「なんですかぁ?ってゆーか取れないですよ」
サンは椿に巻き付く鎖を取ろうと悪戦苦闘していた。
「ユノも殺ろう…」
「えっ!?」
思いがけない椿の言葉に一瞬のサンの手が止まった。
「でもユノを連れてこいって本部が…」
やっと鎖が取れた。椿は身動きが取れ無かった体をほぐしながら答える。
「本部のはユノの体さえあれば足りる計画だった…ユノは今まで戦ったことが無かったハズ…にもかかわらずさっきの戦いかたは、とっさの判断にしては良すぎた。センスがいい。野放しにすることはあまりにも危険すぎる」
サンは椿の言うことに逆らう気は無かった。それに殺せるならなんでもいいと思った。
「分かりました。で…作戦が?」
「あぁ。私は…メンドーな事はキライだ。だからじじぃを操ってユノを殺る。ユノを殺すのはいいが操ったりする心的ダメージは本部の計画には良くないからな。じじぃはほっとけば死ぬだろう。」
椿は一通り作戦を話した。
「ちぇっ。また僕はじぃ様の相手ですか」
サンは不満があったものの頷いた。
「行けっ!!」
椿が声を張り上げた。サンは勢いよく地面を蹴って空に舞った。同時に椿も走り出す。じぃちゃんもユノに言った。
「ユノ!!男の方をやれ!」
じぃちゃんの言葉にユノも剣を握り直して高くジャンプした。行く先にはサンがいた。
「あっ…」
かかってくるユノを見てサンが呟いた。ユノは睨みつける。剣が鎖を引き締め、シャンッと鳴いた。
「悪いけど…君の相手は僕じゃないから」
サンは今にも切りつけてきそうなユノをそう言って蹴り落とす。蹴りはユノの腹に当たった。咳き込んで少し血を吐き出した。
ユノが落ちる丁度下に椿が走り込んできた。上を見上げユノが落ちてくるのを確認すると足を止めた。
「あら、危ないじゃない?」
椿が避けたおかげでユノは強く地面に腰を打ち付けてしまった。
(避けることないじゃん…)
ユノがそぅ思ったのもつかの間。椿が倒れこんでいるユノを目がけて回し蹴りしてきた。
(!?…二度も腹に蹴りを喰らうかっ!!)
そぅ思ってユノは必死にそれを避けた。
その蹴りが始まりの合図だった。
「行くよっ!」
ユノが跳び上がった。
「だからさっさと来いって!」
椿も迎え撃つ。
ユノの剣が風を切る。しかしそれより少し早く椿の張り手がユノの頬を捕えた。
━━スパーン━━━
良い音がなり響いた。
崩れ落ちるユノに向かって椿の技はさらに連発される。口元に手を添えて口笛を吹くように勢いよく息を吹き出した。その息は弾丸のごとく鋭い風になりユノのオデコに当たった。ユノは吹き飛ばされてしまった。
「なに?」
そぅ尋ねたユノのオデコからは一筋の血が流れた。慌ててユノは血を拭う。
「私のブレッド…音(トーン)……」
椿はそれだけ言った。答えになってなかったのでユノはますます混乱した。しかし椿はそんなユノに考える暇を与えようとはしなかった。
「私の音速に付いて来れるか?」
突然、強い風が吹いた。驚いたことはその風に乗るように凄い速さで椿が動いたことだった。付いて行けないほどの速さではなかったが、椿を捕えるためには一切の感覚を全て集中させなければいけなかった。今、攻撃されたら交しきれない。しかし椿は逃げるだけで一向に攻撃しようとしなかった。