〜吟遊詩(第1部†序言・運命†)〜-10
(このまま刺される!?)
そぅ思った瞬間。ユノの手に柔らかい肉の感触が広がった。剣を押し返す微妙な感覚までまざまざと感じられた。
ユノは頭が真っ白になった。足元に血が滴り落ちる。
(血が…!!)
しかしそれはユノの物ではなかった。じぃちゃんが堪えきれず、ユノにもたれかかる。
「じぃちゃんっ!なんで自分を!?」
じぃちゃんはユノの剣で自分を刺していた。
「何かを殺らなきゃ体が治まりそうになかったんじゃ。」
じぃちゃんのブレッド(血)が体中から流れ出す。椿の呪縛は解けていた。
ユノはセーターを脱ぎ、じぃちゃんの止血をすると、側にいたサンを斬りあげ、椿に向かって剣を突き刺した。
頭は怒りでいっぱいになり、足の痛みは分からなくなっていた。
急の事でサンは避けきれなかったが…。椿を刺したハズの剣に手応えは無かった。
「失敗した!貴方を殺るハズだったのに…もぅ時間がなくて…残念だわ。擬体(ぎたい)で来なきゃもっとも殺れたんだけどな…」
椿の体は桜の花びらとなって散り出した。
「次回は必ず…」
苦しそうにそれだけ言うとサンもまた散り始めた。風が完全にそれを拐って行った。
「じぃちゃん!!」
ユノはじぃちゃんを少しでも血を止めようとキツく抱いた。
「ユノ…この若返る術は自分の命と交換するものなのじゃ。死ぬことは分かっていた。」
じぃちゃんの声はかすれていて聞き取るのがやっとだった。
「そんな術…あるわけがないよ!」
ユノはこの術の効果は知っていたが副作用などは知り得なかった。
「ワシは、ブレッドで自分の若い体を作り出したんじゃ。それは体中のブレッドを捧げることで釣り合いが取れる術なのだ。だから…お前のせいじゃない。罪を感じるな…前だけを見ろ…。」
「それでも…!私の運命に巻き込んだ…他人の私の運命にっ!」
ユノはもぅ無理にじぃちゃんに喋って欲しくなかった。そぅすれば生き長らえてくれるんじゃないかと、そぅ思ったから。
「他人じゃと?お前はワシの子じゃ…真の親子よりその絆は深し…親は子のためなら惜しむ命などないんじゃよ。お前はあの本の通り、未来のために戦え…それだけが孝行と思うぞ……」
じぃちゃんはそれだけ言って目を閉じた。最後の詩(ことば)としては短すぎた…。
背に描かれた血の十字架はもぅ無く……
月は二人の姿を隠そうとするかのように雲に呑まれ、辺りは闇にそまった。
じぃちゃんを刺した感触がいつまでもきえない……━━
〜第1部†序言・運命†〜【完】