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『縛られた女』
【SM 官能小説】

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『縛られた女』-10

8.「縛られた女」の微笑み

「先生、もう頭を上げてください。
私、わかりました。
ママは、『Mである本当の自分』をとても大事にしていて、ずっとその『本当の自分』として生きてきて、だからこそ『本当の自分』の「居場所」が無くなったと感じて、自殺してしまったんですね。

もう会うことはないと思って別れた先生が、再会後ママの「居場所」になれなくなってしまっていたとしても、それは先生のせいだとはいい切れないと思います。
それより先生、書き置きのファイルが入っていたUSBメモリーには、これも入っていたんですけど、これがママがずっと大事にもっていて、自殺する直前に先生に返した絵ですよね?」
真由は、USBメモリーに入っていた写真をプリントした紙をとりだし、佐々木に見せた。

「あっ、そうだよ。そうか、彼女、写真にも撮って保存していたんだね」
「はい、そうみたいです。
それで先生、ママが先生に返した本物の絵は、ここにあるんですか?」
「うん、準備室の方に置いてある」

「じゃあ、私にその絵を、見せてもらえますか?」
「わかった。今持ってくるよ」
佐々木は隣の準備室に入るとすぐ絵を持って戻ってきて、椅子の上に立てかけて置き、真由に見せた。

「うわあ!写真とは、迫力が全然違いますね。
すっごい!ママが若返ってカンバスの中に入り込んだみたい!
この絵がずっと、Mである本当のママの『居場所』だったんですね」
真由は、感動に声を高ぶらせて叫んだ。

「そう、そして今は、『Sとしての本当の僕』の『居場所』になっているよ」
佐々木は絵を見詰めながら、しみじみとした口調でいった。
「えっ、それ、どういうことですか?」
真由は見入っていた絵から目を離し、佐々木を見た。

「彼女が亡くなってからね。僕は、十数年ぶりにこの絵を見たんだ。
そしてじっと見守っているうちに、『Sである本当の僕』がだんだんと蘇ってきた。
そして、また『居場所』になってきたときの、Mの体臭を漂わせているように僕が感じた彼女の姿を思い出し、猛烈に縛って責めたくなってきた。

それからは出勤した日は必ず隣の準備室でこの絵を見て、あのときの彼女の姿を思い浮かべては、毎回こう縛ってああ責めようとかなどと、あれこれ考えるようになった。
手遅れになってしまったけれどこれが僕の、『Sである本当の僕』を見失っていて失望させてしまった彼女への、せめてもの供養になるんじゃないかと思っているんだ」
佐々木は絵をじっと見つめたまま、そういった。

パチパチパチ………。
突然真由が拍手を始めたので、佐々木は驚いて真由に目をやった。

「素敵です、先生。
それ、ママも絶対喜んでいると思います。
それで先生、私、是非お願いしたいことがあるんですけど…」
「えっ、どんなことかな?」
「先生、私、絶対Mだと思うんです」
「えっ!」

「あのね、先生、この書き置きが先生宛のものだと、どうして私がわかったと思いますか?」
「いや、さあ、さっぱりわからないな」
「はい私も、書き置きだけでは誰宛だか、わかりませんでした。
でも、絵の写真の方を見て、先生だとわかったんです」


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