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凪いだ海に落とした魔法は
【その他 官能小説】

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凪いだ海に落とした魔法は 3話-56

「日下部、ボウリングの経験は?」と僕は訊いた。
「――ない」簡潔な答え。
「嘘!?」

白川が目を丸くして日下部の顔を見る。日下部はその大仰な反応をうっとおしく感じたのか、眉間に皺を寄せた。

「なら行こうか。いいだろ日下部。これも初経験だ」と僕は言った。

日下部の表情の乏しい顔に、若干ながら肯定の色を見付ける。日下部沙耶の顔色審査コンテストがあったら、今の僕なら間違いなく入賞できる自信がある。

「まあ、志野がそう言うなら俺も別に構わないぜ。金払わなくていいんだろ」
「もちろん。あ、飲み物とかは自分で買ってよ。楽しみね」

白川は事あれかしの顔で頬を緩ませた。





平日午後四時、街外れのボウリング場は閑散としていた。二十本程のレーンが並んでいたが、僕たち以外には四組のグループが遊んでいるだけだった。レーンの手前には、スロットメダルやクレーンゲームを設置した小さなゲームコーナーがあり、その隣の売店ではお菓子やドリンクを売っていた。

「久しぶりだったけど、簡単なもんじゃないか」

沢崎が豪快な速球でストライクを叩き出した。運動系なら何をやらせても人並み以上にできる奴なのだ。白川が拍手をして、沢崎もまんざらではない顔をする。
次に日下部が立ち上がって、ボールを手に取る。見よう見まねのフォームで玉を転がした。ぎこちない動作で送り出されたボールは何とかガーターにならずにピンを一本だけ倒した。帰ってきたボールを再び手にして、二投目を投げる。多少はコースを修正したのか、今度は三本を倒した。

「始めてのボウリングはどう?」と僕は日下部に感想を訊いた。
「何かを狙って何かを投げるゲームなんて、誰が考えたんだろ。ダーツとかさ。よっぽど暇だったんだろうね」

お気に召さなかったらしい。日下部は首を傾げながらシートに座った。

「確か、元々は儀式的なものだったんだよ。ピンを悪魔に見立てて倒すことで厄除けにしたとか」
「なら、次からはあの娘をピンに重ねて投げようかな」
「あの娘って白川?」と僕は小声で訊いた。
「冗談よ」

冗談か。だとしても、それはなかなか悪くないアイデアだった。
白川が「よし」と気勢を吐いてレーンに向かったけれど、見る必要はなかった。結果よりも、如何に自分が可愛らしく見えるかのゲームでもしているのだろう。重そうにボールを抱えて、よろよろと転がし、「外れちゃったあ」とか言うのだろうなと考えながら日下部と話していると、ピンが激しく倒壊する音が響き渡った。

「ストライク!」

見ると、白川がこちらを振り返ってガッツポーズをしている。

「お見事」

沢崎がボックス席の後ろで煙草を吸いながら称賛すると、白川は照れくさそうに手を振った。ゲームを始める前に、「スコアの一番低かった人は罰ゲームにしようよ」と言い出したのは誰だったか。もちろん白川だ。日下部がその提案を却下してくれて助かった。


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