投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

凪いだ海に落とした魔法は
【その他 官能小説】

凪いだ海に落とした魔法はの最初へ 凪いだ海に落とした魔法は 86 凪いだ海に落とした魔法は 88 凪いだ海に落とした魔法はの最後へ

凪いだ海に落とした魔法は 3話-39

「でも、それだけじゃ終わらなかったと」
『そこで終わっとけばお互い良かったのにね。そのあと彼は日下部沙耶を立たせて、おもいっきりバシーンと』
「ビンタ制裁か」沢崎は先を読んで言った。
『となるはずが、グサッとそこで刺された』
「何?」
『彼女、咄嗟に盾にしたのよ。平手打ちに対して、ツンツンに尖った鉛筆の先を』
「――おお」

沢崎は思わず自分の手を握り締めた。削り立ての鋭利な鉛筆に全力で手のひらを叩きつける光景を想像し、ぞっとする。ブチッと音を立てて皮を破り、薄い筋繊維を容易く切り裂く黒鉛。骨で止まるといいが、下手をすれば血管もろとも貫通するかもしれない。

「そりゃ凄惨だな」
『凄かったみたいだよ。みんなびっくりしただろうね。女子がビンタされたかと思ったら、叩いた教師のほうがギャアッて叫び声を上げて、辺りには血が飛び散ってるわけ』
「是非その場に居合わせたかったね。居丈高なセクハラ教師が女子生徒に敗北する様なんて、さぞかし爽快なショーだろ」
『趣味悪いこと言わないの。でもまあ、その件で女子からの人気は持ち直したみたいだけどね。ほら、群れたがらない娘って、お高く止まってる感じで嫌われるから。それが美人なら尚更ね。ムカつく女から近寄り難い女にシフトチェンジしただけかもしれないけれど』
「何でそこまでしてヒーローに昇格できないかね。職権乱用のセクハラ親父なんて宿敵だろ。女は分からん」

呆れたように沢崎は言う。敵の敵は味方ではないのだろうか。

『そう単純にいくわけないじゃない。手のひらに鉛筆が突き刺さったまま悶え苦しむ姿なんて、スカッとするよりゾッとするよ』
「鼻で笑ってやりゃあいいのに」
『人格破綻者だね』
「個性の塊って意味?」
『バッカじゃないの』
「馬鹿でもサイコでもいいよ。で、続きは」

携帯の光に誘われて寄ってきた虫を追い払いながら、先を促す。

『そうそう。それでね、騒ぎを聞き付けた先生が駆けつけて、金野先生は病院に連れてかれて、日下部沙耶は即、指導室に連行されたんだけど』
「ああ、あの取り調べ室みたいな殺風景な部屋ね。俺も何回か入ったことあるよ」
常識のように沢崎は言う。
『模範的な生徒は一回も入ったことないんだよ』
「あ、そう?」
『もう。それで、教師数人で囲んで事情聴取。そりゃあ大事だよね。流血沙汰で、しかも相手は教師なんだから。でさ、そういう状況に立たされた女の子には、然るべき反応があるはずだよね。自分のやらかしたことの大きさに気付いて泣き崩れるとか、逆に開き直るとか』

自ら牙を剥いておきながら、相手に吠えられた途端に萎縮する人間は確かにいる。振り上げた拳の降ろし方を知らない人間も然り。沢崎はまた煙草に火を付けた。

「日下部沙耶はそうじゃなかったと?」煙と共に彼は言う。
『みたいだね。何も変わらなかったんだってさ、彼女。いつもみたいにダルそうで、まるで何もなかったみたいに平然としてたって話。人の手に鉛筆突き刺しておいて、むしろどうして自分が怒られているのか不思議そうにしてたくらいだったらしいよ』

だろうな、と沢崎は言った。日下部沙耶の胆力の高さについては彼も認めている。その程度で取り乱すようには思えなかった。


凪いだ海に落とした魔法はの最初へ 凪いだ海に落とした魔法は 86 凪いだ海に落とした魔法は 88 凪いだ海に落とした魔法はの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前