淡恋(後編)-1
…海を見に行かないか…
あれは、僕が高校三年の夏だった。
すでに高校を卒業し、地元で就職していたマサユキさんと最後に会った夏のひとときだった。
誰もつかっていない叔父さんの別荘があるんだ…と、マサユキさんが僕をあの別荘に誘ってく
れたとき、僕はすでに別れの予感を感じていた…。
眩しい白い砂浜の先には、抜けるような青い夏空が広がっていた。
マサユキさんの横顔を、僕は吸い込まれるように見つめていた。締まった頬の優しい線と
優雅な鼻梁…そして、その瞳はどこまでも藍色に深く沈んでいた。
僕はジーパンの裾を捲りあげる。澄んだ海の中に浸した足首を波が静かに撫でていくのが心地
よかった。いったい僕たちはどんな風に見えるのだろう…と、ふと心の中で苦笑する。
「僕たち…まさか、恋人同士には見えないよね…」
小さな笑みを浮かべたマサユキさんの瞳の中に、どこか悲しい光がふと瞬いたような気がした。
マサユキさんのシャツの胸元から艶やかな白い肌が見えている。紺色のハーフズボンの膝から伸
びたしなやかな足首が、眩しい陽光の中で揺らめいていた。
海岸から近い林の中に、その別荘はあった。
夕闇に包まれた海岸から吹いてくる湿った風が、心地よい潮の匂いとともに部屋を流れていく。
予感を含んだ空気が、僕たちのあいだに漂っていた。マサユキさんは、すでにトランクスだけの
姿でベッドに腰を下ろしていた。
僕はゆっくりと衣服を脱ぎ、白いブリーフを足首から脱ぎ取ると、生まれたままの姿をマサユキ
さんの前に晒す。淡い産毛のような繊毛の中に、僕のペニスが恥ずかしげに縮かんでいたけど、
すでにかすかな微熱を持っていた。
立ち上がったマサユキさんが、ゆっくりと僕の頬を撫でる…。
戸惑いはなかった。好きだった…マサユキさんがどうしようもなく好きだった。
マサユキさんのなめらかな手が、ゆっくりと僕の背中を這い、窪みを抱きとめる。彼の顔が頬に
近づき、透きとおった葡萄の実のような唇が僕の首筋に触れる。
首筋から少しずつ這い上がるマサユキさんの潤った唇が、僕の唇をゆるやかにとらえ、しっとり
と重なる。抱きしめられた僕の体が甘く溶けていき、マサユキさんのからだと一体となるような
気がした。
そして、口の中に彼の吐息が運んできた香りがひろがると、僕の胸の奥に甘い心音が蕩けるよう
に拡がる。
ベッドに押し倒された僕の肌の上を、森閑とした湖面のさざ波のようなマサユキさんの白い手の
表面が撫でる。
微熱をもち始めたからだが、マサユキさんを欲しがっているのがはっきりとわかった。薄い僕の
胸肌をマサユキさんの唇が目まぐるしく這う。肌の火照りが体を開かせ、少しずつ僕のものが
堅くなっていく。
マサユキさんのトランクスの布地をとおして、彼の堅く頭をもたげ始めた気配のするペニスを
僕は掌でまさぐった。