無銭湯記スパゲッチュー-15
第16話 『勇気』
もうこのガスト砦にはいくらの戦力も残って居ない事など、軍隊の経験のない俺でも解りきっていた。
前方からは『ゴルドバ帝国軍』の数千とも思われる兵士達が、進軍してくる。期待していた援軍は現れない。
「もうこれまでか!」
そう思った瞬間、俺の身体の硬直が始まっていた。
俺の運命もこれまでなのか、そう考えるとさらなる緊張が身体を、さらに固くしていく。
”死にたくない”
本当はそう思っているものの、その言葉を出してしまったら、かろうじて保っている自分の理性が木っ端微塵に砕けちり、
とても正気の沙汰では居られそうにもない。だから、恐くて言えなかった。
「裏口から逃げようよっ!」
レイモンドがそう、俺の耳元で囁いた瞬間、氷で閉ざされていたような身体の緊張が、いっきに解け落ちるのを感じた。
気がつくと俺は、レイモンドの小さな手をにぎりしめ、裏口へと続く通路を、全力で走っていたのだった。
つづく