恋愛小説(6)-8
「うらうらぁ!なにしみったれた顔して飲んでるんだぁ!?さてはお前ら、出来てるな!?」
「黙って飲んでるだけであらぬ疑いをかけられるのは心外っす、木村さん」
木村さんは早くも酔っていた。隣で村田さんが優しい声で勇めている。「あんまり飲み過ぎたらダメだよ」本当にこの二人は。なんというか、微笑ましいものだ。
「水谷ぃ!!」
「はい?」
「井上とはもうやったか?」
「……はい?」
「なんだ、まだやってないのか。まだまだだなぁお前も」
「木村さん……」
「いいか、あんなにいい子、他にいないんだからな。俺が惚れたぐらいだ。それは保証する」
「木村さん」
「ぶっちゃけ言うとだな、水谷。俺、知香ちゃんがいなかったらまだ井上を狙ってたぜ」
そう言うと同時に木村さんは村田さんに頭をはたかれた。見事なツッコミ。この二人なら、いい家庭を築きそうだ。
「ははっ、そうですね。千明のことはまかせて下さい、木村さん」
「水谷君。私も少なからず、応援してますから」
「うん、ありがとう。村田さんも木村さんをよろしくね」
「ええ。そりゃもう、任せて下さい」
そうこうしている間に、木村さんは隣のテーブルに突撃していってしまった。村田さんがそれを慎ましく追いかけていく。なんだかなぁ。
トイレに席を立つともう先客がいて、トイレに覆いかぶさり千明がすでに凄い勢いで吐いていた。この世の全てを否定するかの様なスピードで口の中からありとあらゆるものを吐き出している。なんとまあ凄まじい光景だろう。デジャブの様な幻視感が僕を襲う。
「ひー。ちーくぅん。もうアカン、もう無理、死んでまうー」
「またそんなに飲めないのにそんなに飲んで」
「だってこんなん、久しぶりやったんやもん」
そういって精一杯作ってみせた千明のその笑顔は、何もかもを融かし、練り合わせ、素敵な形を保ち、夢の様に暖かなものだった。
「アカン、ちょい寝る」
「うん、そうするといい」
「30分たったら起こして」
「おおせのままに、女王陛下」
「ははっ、よきにはからへー」