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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(6)-7



「そうだ、千明?」
「ん?」
相変わらず僕らは公園のベンチに座って互いの体温で身体を温めあっていた。もう涙は止まっていたけれど、その余韻がなんだかとても心地よくって、僕としてはいつまでもこのままこのカッコでいてもいいぐらいだ。
「木村さんがクリスマスパーティを開くんだって。千明、来週の日曜日予定ある?」
「あっても空ける」
「いや、無理しなくてもいいんだよ?」
「いや。無理する。今までやって結構無理してきたんやもん。もう我慢するんは嫌や」
「そうだね。きっとそうだ」
千明を我慢させてきたのは、他ならぬ僕だ。僕はその事実に今まで眼を背けながらここまで来た。でももうそれも必要のないことだ。
「そういえば千明、告白されたってあの話どうなったの?」
「ん。断った」
「そっか」
「へへー、安心した?」
「かもしれない」
千明は笑っていた。また千明の笑顔が見る事が出来て、僕は幸せだった。大層すぎると世間の人は言うのかもしれない。言いたければ言うが良いさ。青臭いだなんて、そんな事は解っている。千明は前にこう言っていた。「人は人との関わりでしか変われない」と。僕は一時、ならば千明が変わってしまうならそれは僕のせいだ、と思っていた。千明が言いたかった事はそうではなかったのだ。変わりたいと思うのなら、という一文がその言葉にはついてしかるべきだったのだ。僕は変わった。千明との関わりの中で、僕は確かに変わった。それが僕にとって、または世間にとって良い変化かどうかはわからない。けれど少なくとも千明にとっては素晴らしい変化だった、と僕はそう思う。それでかまわないとさえ、僕はそう思う。
「そや、ちーくん?」
「ん?」
「ただいま、ちーくん」
日が暮れようとしていた。刻一刻と丸い円が歪に、でも親密に面積を少なくしていって、やがて当たりに闇が訪れた。僕は昔の事を思い出していた。昔といっても一年ほどのことなのだけれど。千明と僕の足下から伸びる影。その影は今も変わらず、肩をよりそうようにひっついていた。
「おかえり、千明」




クリスマスイプの前夜、居酒屋「いっこう」に集まったのはごくわずかなメンバーで、なんでも仲のいいメンバーだけを集めたと木村さんが言っていた。木村さんに村田さん、田中の姿も葵ちゃんの姿もそこにはあった。もちろん、僕の隣には千明もいた。
「うし、みんなグラスは渡ったな。では今から天文サークル伝統の、クリスマスパーティを開催しまぁす!」
僕の右手にはオレンジジュースがある。無論、お酒なんて飲みはしない。隣で千明はジョッキに入ったビールをあおっていた。飲めもしないのに、やれやれ。今日は損な役割りが回って来そうだ。
「なぁ水谷。いつからクリスマスパーティは伝統になったんだ?」
「さぁ、今日からじゃない?」
煙草を片手にちびちびとビールをすするのは田中だ。飲むか、吸うか、どちらかにすればいいと僕は思うのだけれど、それが彼のスタイルなのだからそれもいたしかたない。
「良かったな」
「え?」
「おまえ、井上と仲直りしたんだろ?」
「ははっ、わかる?」
「あぁ。あんなに楽しそうな井上を見たのは久しぶりだからな」
千明はもう最初のジョッキを空け、店員に大きな声でおかわりを催促していた。すごいピッチだ。僕の知る限り、千明は僕と変わらないぐらいの下戸のはずだ。
「付き合っているのか?」
「さぁ」
「付き合ってないのか?」
「かもしれない」
「相変わらず、だな」
「でも、それでいいんだ。たぶんゴールは見えてるから」
「ゴール?」
「うん。クリスマスに、告白する。ちゃんと千明に、告白するよ」
「そうか。うん。そのほうがいい」
それだけ言うと田中は新しい煙草に火をつけた。この男特有の合図だ。僕もそれだけ言うと黙ってオレンジジュースを飲んだ。


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