恋愛小説(6)-6
「私だって、元気な訳、ない、や、ん」
千明はもう泣き出していた。しゃくりあげながら、声を上げる様に嗚咽を吐き出し、必死に、ただ必死に、何かに耐える様に肩を震わせている。僕は千明の肩を抱き、額を千明の頭のこするように会わせた。
「千明」
「ちーくん」
「ごめん、僕が悪かった。千明に、あんなこと言うべきじゃなかったんだ。今更許して欲しいなんて都合のいいこと言おうとも思わないけれど、ただ会って謝りたかったんだ。本当にごめん」
「あんなこと?」
「そう。もう何ヶ月も千明の存在に甘えて来たのに、僕はあんな風に言うべきじゃなかったんだ。千明が告白されたってことに、怒ったり、沈んだり、焦ったりするべきだった」
僕は千明に巻いてもらったマフラーの端を持って、千明の首に優しく巻き付けた。人差し指で頬を伝う涙を拭った。おでこを摩り、頬に手を当て、僕のおでこを千明のおでこにくっつけた。
「あんなことを言えば、千明が怒ることなんて予想するより簡単な事実だったのに。僕が間違ったんだ。いや、違うかな。僕がまた、繰り返したんだ」
「ちーくん」
「もう取り戻すことが出来ないのは解ってる。だから」
「ちぃーくぅん」
「だからさ、また二人でやり直すことは出来ないかな?」
「ちぃ、く、ん」
ぼろぼろと流れる涙は止まることをしらずに、川の流れのように千明の頬を濡らし続けている。土砂降りの雨みたいな、いや、その表現すらももう正しくない。涙は流れることがその本質の様に流れ続けていて、僕の眼からも大量の涙が止まりはしなかった。二人は、もはや止めようという努力もせずに泣いた。そうすることで過去の過ちを清算している様にも、僕には思えた。
「千明?」
「ちーくんのあほぉ。ちーくんのボケぇ。ちーくんのカスぅ」
「うん。そうだね。そうかもしれない」
「そうかもしれないやあらへん」
「うん、そうだ。きっとそうだ」
再び風が吹きだした。それは公園の木々を流れ、小さなブランコを揺らし、ベンチに座る二人を嬲るように流れて彼方へと消えていった。でも二人の熱は冷めることは無かった。冷めることなど出来はしなかった。そんなこと、たとえ神様が許そうと僕が許さない。キリストだろうと仏陀だろうと、僕は許しはしない。