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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(6)-2



あの日以来、表面上僕と千明の関係は変わらなかったのだけれど、でも僕らの間にあった決定的な何かは確実に消えていて、それがもう二度と戻らない事を僕と千明は気づいていた。家に帰ると元の場所にあったものが消えているのだけれど、それが何かがどんなに努力しても思い出せないような、そんな感覚が僕と千明との間にフワフワと浮かんでいる。どうにかその消えてしまった何かを思い出そうと、僕は何度も試みたものだけれど、大抵の場合それは上手く行かずに、輪郭すらも捉えられず光の中へ消えてしまうのだ。どんな事にも終わりはあるというけれど、それは悲しいものだ。永遠と変わらないと思っていた(あるいはそう勘違いをしていた)ものは、いとも簡単に消えてしまったのだから。
千明との関係について、葵ちゃんはなにかしら気がついている様だった。僕と千明と葵ちゃんとが三人で話す機会があったのだけれど、いつもの様に暖かい気分にはならず、辺りはなんだかギクシャクした空気が漂っていた。僕は何も話さなかったし(何を話すべきだったのだろう)、千明は完全に僕を無視していたし、葵ちゃんはそんな僕らの変化についていけず戸惑っていた。
「ひーちゃん、冬休みは何か予定があるの?」
「ん?僕?」
「うん、お正月も挟むんだし、実家に帰ったりしないの?」
「別に帰ったって誰も喜ばないしね」
「じゃあどこか行ったりするの?」
「かもしれない」
「ふーん、あっ、じゃあ千明先輩はどこか行くんですか?」
「私はたぶんバイトやなー」
「ずっとですか?」
「そら何日かは休みあるけど、大体バイトやなー。はぁー、クリスマスも近いのに、ずっと働かなアカンって、地獄やわ」
「じゃあまた三人でどこか遊びに行きましょうよ」
葵ちゃんは葵ちゃんで気を使っているのかもしれなかったが、それはまるで見当違いの気遣いだった。
「うーん、まぁ考えとくわ。はっきり休みの日取りが決まってる訳でもないし、休みの日はやらなアカンこともあるし」
「そうですか」
千明は手帳を開きながら、そう答えた。僕は基本的に暇だったのだけれど、千明と同じ様な事を答えた。結局の所、僕は同じ所でグルグルと周り続けているだけだ。また言うべき言葉を、僕は言う事が出来なかった。

昼過ぎになっても相変わらず息は白む。はーっと吐いた息が空に吸い込まれて行く様には何処か神秘的にすら見えるから、僕は冬が好きだった。分厚く広がる雲も、ひらひらと舞う白い雪も、寒々しい閑散とした雰囲気が漂う昼下がりの公園も、こたつの中で感じる微睡みも。どれもこれもが行く先々で僕を魅了するのが例年の冬だったけれど、今年は少し様子が違う。僕の隣がぽっかりと空いた空間の様な寂しさが漂う。去年までは、その空間が一番暖かかった。もちろん、そこには千明がいた。
まぎれもなくそれは事実としてあって、しかしそれはもう戻りはしない記憶となってしまったことを僕は悔いた。僕は今一人で何処かに向けて歩いている。煙草を吹かし、当ても無い旅路にいる。いや、そんな大層なものでもない。ただ身体を動かしていないと、僕のどこかにある流れみたいなものが澱んでしまいそうな気がしただけだ。とにかく、僕は歩いている。空は冬の厚い雲に覆われて光さえ無い。白と黒だけが彼方まで続いていた。木々は息を潜め、車が排気ガスを吐き出しながら凄いスピードで走っている。僕は時々過去の事を考える以外は、平静を保っていた。猫が身を寄せ合いながら路地の端で眠っていた。僕は歩きながら千明の事を考えた。千明が言った言葉について考え、千明が行動した理由を考えた。風は冷たく、枯れ葉が舞う空は寂しげだ。誰も彼もが他人事みたいにクリスマスを祝い、僕はただ一人で歩いていた。



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