完・決-7
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かまどから取り出した焼きたてのパンを、ケースの上に置いた。
・・・こんがり焼けた狐色で、香ばしい匂いが漂っている。見た目は合格だな、自己採点で。
「さあ、食ってくれ父ちゃん。今度こそ本当に合格だろ」
「肝心なのは味だぞ、ドライ。みてくれがいいパンならそんなに焼くのは・・・」
「いつものセリフはいいから早くしてくれよ」
大丈夫、今度こそうまくいくはずだ。
俺のパンは食べた人を幸せに出来る力がある。
「・・・・・・」
「どうだ、父ちゃん。旨いか・・・?」
「不味くは無いな。だがそれだけだ」
「またそれかよ!いつも残さず食ってるくせに・・・」
「でも、味は変わってないな。毎日同じ味を焼く方が難しいし、何より大事だ」
・・・同じ味、か。
お客さんの中には俺のパンを楽しみにしてくれてる人だっている。
友達は皆、旨いって喜んでくれるのに。満点のパンだ、間違いない。
でも父ちゃんにしてみたら、及第点にすら・・・
いや、待てよ。もしかしてさり気なく誉めてないか?
「さあ、今日はもう店じまいだ。これくらいにして掃除手伝え」
「待てよ、今度はフランスパン焼くから。顎が疲れるくらいパンパンに生地が張ったやつ、焼いてやるよ!」
「うん、そうだ。その心がけは立派だぞ、ドライ。でも切り替えはもっと大事だ」
笑いながら箒と塵取りを渡してくる父ちゃん。
「お願い、あと一回だけやらせて。今度こそ父ちゃんに旨いって言わせてみせるから」
「何だ、父ちゃんなりに誉めたんだが不満かドライ」
・・・いいや、嬉しいんだ。
俺がこうして毎日パンを焼けるのは幸せな事だから。
だが掃除はしなきゃならないので、渋々箒を受け取って床を掃き始めた。
旨いとは言わせてないし、まだまだ努力が必要だよな。
やっぱり父ちゃんの背中は遠いみたい・・・・・
「お兄ちゃん!」
一通り終えたところでフィアが入ってきた。
「表の掃除は終わったのか」
「うん。ねえ、パン焼いて!」
「またかよ。昨日も焼いてやっただろ」
「お兄ちゃんのパン美味しいんだもん!いいでしょパパ」
「お客さんだぞ、ドライ」
・・・父ちゃんに振るなよ。
妹ってこういうの上手だよな。父ちゃんに言えば焼くって分かってるんだ。
「仕方ないな。ちょっと待ってろよ」
「はーい!」
もしこれからまた何かあっても、父ちゃんと母ちゃん、フィアがいれば大丈夫。
帰る場所が、そして理由があるならきっと−
〜〜おしまい〜〜