Purple ecstasy-5
「なるほど・・・なかなかいいな、南の島って感じで」
唸るように呟くと、ラグナはバックをベットの上に放り投げて窓辺に立った。
壁一面がガラス張りのお陰で、
自分が空中に浮いているかのような錯覚を覚えてしまう。
眼下には絵に描いたような白い砂浜と波打つ白い波、そこで海水浴を楽しむ人々が無数の点になってあちこちに散らばっている。
―――シュボッ・・・・
いつもの習慣から、胸元のポケットから煙草を1本取り出し、口にくわえてライターの火をつける。
―――フウゥ・・・・
窓辺に吹き掛けるように肺の中の煙を吐き出すと、 ラグナは少々今の自分が馬鹿らしくなった。
南の島の休暇という情景にどう考えても自分の格好がそぐわないことを実感したからだ。
南の島とその暑さには明らかにそぐわない、ビジネス仕様のスーツにネクタイ。そして革靴。
「いかんなぁ、これでは・・・・休暇なんだからな、休暇休暇」
自分自身に言い聞かせるように呟くと、
ラグナは加えたばかりの煙草をテーブルの上の灰皿に押し付け、
シャツのボタンに手をかけた――――
††††††††††††
―――それから2時間後、
ラグナはサングラスをかけ短パンとサンダルという装いでホテルを出ると、教えられた道を下って浜辺に向かってゆっくりと歩いていった。
もっともが向かう浜辺というのは、先程ガラス越しに見下ろしていた海水浴場ではない。
大人数が動き回り騒がしい場所は正直ごめんこうむりたかった。
そもそもラグナがこの島に来たのも、極力静かな環境で日頃の疲れを癒したいということが根本にある。
ホテルの従業員にその旨を伝えて良い場所はないか尋ねると、
いつもお客に案内している場所とは別の、文字通りの穴場への道を教えてくれたのだった。