Purple ecstasy-29
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―――太陽がオレンジ色の光を残しつつ水平線の向こうに重なろうとしている。
時計の針は午後5時20分。
奇しくも昨日2人が“初めて接触"した時間でもある。
その節目の時間、2人の乗ったヨットは
“節目の場所"、穴場である入り江に入っていた。
―――ザザァァァン・・・
ヨットの船体が砂浜に接岸し乗り上げる。
ラグナが先に砂浜に降り立ち、続いてルールーがラグナに手を差し出されて、これに続いた。
昨日岩影に隠してあったパラソルとシートを片付け、ヨットに積み込む。
―――ザザァ・・・ン
「・・・・・・」
「・・・・・・」
打ち寄せる波の音を聞きながら、
沈む夕陽をバックに2人は砂浜の上で向かい合い、見つめ合う。
多くの言葉を交わさなくても、2人はそれぞれ別れの時間がやってきたことを本能的に理解していた。
「ありがとう、ラグナ。貴方のお陰で、私は“本当の女"に戻れた」
「いや、私の方こそ・・・ルーのような“最高の女性"に逢えて良かった」
自然と2人の影の距離が近くなり、重なる。
2人の間に余計な言葉は必要なかった。
―――それから10分後、
ルールーが操るヨットがゆっくりと入り江を離れていく。
ラグナは1人砂浜に立ち、水平線に消えていくオレンジ色の夕陽と
束の間の時間を過ごした女性の後ろ姿を
ただ無言でじっと見送っていた――――