Purple ecstasy-15
―――・・・カランッッ
グラスの中で溶けかけた氷が音をたてる。
不思議な静寂の中、その音がラグナにとってはやけに大きく響いた。
(彼女が指輪を外し、私を“最高の男"と呼んでくれる。
私にとってルーは、“最高の女"――――)
ふと気づいた時、バーの中に流れていた音楽はやんでいた。
周りを見渡してみると、バーの中にはカウンターに座るラグナとルールー以外客はいなくなっている。
「どうやら閉店時間、といったところか・・・・」
「そうみたいね・・・・」
酒を交えながら話に熱中してきたせいか、
2人とも程よいくらいの酔いを感じていた。
「行きましょうか」
「・・・どこへ?」
「・・・・・」
思わず腰を上げかけたラグナを見上げるような上目遣いでルールーが問いかけてくる。
どこか挑発的な感じの物言いに、
ラグナは一瞬ムッとしかけたが、すぐに気を取り直す。
酔いのせいか、その挑発に乗ってやろうかという気になっていた。
彼女が指輪を外しているのも、最初からそのつもりであったのだろう(と、男の側としては考えたい)。
「貴女が望まれるなら、どこへでもエスコートさせてもらうよ」
「それじゃあ、貴方の部屋でお願いするわ。・・・とりあえずは、エレベーターまで」
そう言ってルールーはバーの入り口付近にあるエレベーターの入り口を目で指し示す。
「行きましょう」
これから先にあるものが何かを予感しつつ、
ラグナとルールーは腰を上げた。
ラグナが誘う形で1歩先を行き、2人はエレベーターの前に立って上りボタンを押す。
――― チーン・・・・
程なくして入り口が開き、2人は流れるように鉄の箱の空間に滑り込んだ。
エレベーターが動き出し、鉄の両扉が左右から閉まる瞬間。
もし、この時エレベーターの前に人がいたならば、
その人物はエレベーターの中にいる2人が抱き合い、唇を重ねようとする瞬間を間近にした筈である――――