Purple ecstasy-10
終始無言とはいえ、
ルールーの微かな吐息と甘い香りが鼻先をくすぐる。
背中にのしかかる豊かな乳房の弾力と重み、
そして腰付近に彼女の下腹部があたるのを感じてしまい、心なしかラグナは下半身が熱くなり心拍数が上がってきたのに当惑していた。
本来ならもっと楽しめるであろう経験も、
状況が状況だけにそのような余裕もない。
そうこうするうちに、何とか小道を上まで上がりきりそのまま自分の泊まるホテルの方向に向かって歩いていく。
ホテルの敷地内に入り舗装された道路にぶつかった時タイミングよく走ってくるタクシーと遭遇することができた。
タクシーを呼び止め、
ルールーの身体をゆっくりと下ろしつつ、車の後部座席に座れるよう補助してやる。
互いに言葉も発することなくタクシーのドアが閉まり、今まさに車が発進しようとする時、
初めて車中のルールーがサングラスを外し自分の瞳で直接ラグナの方を見た。
目元も涼やかで、その瞳は黒真珠のような輝きを放っていたな。
砂塵をたてて走り去るタクシーをぼんやりと見送りながら、ラグナは思った――――
――――ホテルに戻ったラグナは、自室でシャワーを浴びると、白のワイシャツと黒いジーンズというラフな格好に着替えた。
部屋を出たラグナはそのままホテルの地下にあるバーに向かう。
夕食の時間帯でもあったのだが、今のラグナは何故か一杯飲みたい気分だったのだ。
―――♪〜〜♪〜♪
階段を降りたラグナがバーに入っていった時、部屋の隅から流れるピアノの音色がその空間を包み込んでいる。
照明は薄暗く、それゆえバー全体が独特の雰囲気に包まれていた。
客はラグナ以外に数組の男女がそれぞれ設置された円卓に場を占めている。
カウンターに人影がいないことを確かめると、
ラグナは隅の位置にある椅子に腰を下ろした。
すかさず眼鏡をかけた小柄な老人がラグナの目の前にやってくる。
「マティーニを」
ラグナのリクエストに老人は無言で頷き準備をはじめる。
ラグナはいつものごとく煙草をくわえて火をつけると、両肘をカウンターに置き自分自身の両手のひらを見つめた。