熱帯夜の終わり-1
パンッ
渇いた音が辺りに響いた。
突然のことに目の前がチカチカする。
母親以外の人間にビンタされるなんて初めてで、一瞬何が起きたのか分からなかった。
だけど…
みのりさんが泣いてたから、そこでようやく事の重大さに気づいた。
自分がついた嘘の重さ。
軽い気持ちだったそれは、みのりさんをどれだけ傷つけたんだろう。
何もできなくなった俺を見ようともせず、みのりさんは家の中に入ってしまった。
一人残されて、叩かれたほっぺたを触る。
繋いでくれた手。
看病してくれた手。
優しい手だったのに。
嫌われたんだよな。
嫌われ…
「!?」
ガタガタと二階から派手な音がした。見上げるとあの窓のある辺りから聞こえて…
雨戸!!
ダッシュで家に入って階段を駆け上がった。
部屋の窓を開けると、思った通り、みのりさんが雨戸を閉め終わる状態で、間一髪隙間に手を突っ込んで無理矢理こじ開けた。
「みのりさん!」
「離して!」
「俺の話を聞いて」
「いや!」
「みのりさん」
「嘘つき!」
「聞いてって」
「最低!」
「だから―」
「大っ嫌い!!」
「聞けよ!!!!」
大声で怒鳴るとみのりさんは肩をびくつかせて、それからキッと俺を睨んだ。
「嘘ついてたのは悪いと思ってる」
今の俺がしなきゃいけないことは、嘘の上塗りでも口先だけでごまかすことでもない。
正直に謝ることだ。
「本当のことも言おうとした。でも言い出せなかった」
嘘つきで終わりたくない。
嫌われたまま別れたくない。
だからちゃんと言わなきゃ…
「ごめん」
誰かにこんなに真剣に謝るなんて、初めてかもしれない。
頭を下げてギュッと目を瞑る。次にみのりさんからどんな言葉が来るのか不安でビクビクしていた。