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熱帯夜
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それから-6

コール音がやたら大きく感じる。
お願い、出ないで。
出ないで…

「もしもし!?」
「…」

それは携帯越しの声じゃなく、すぐ近くで喋る声。
あんなに聞きたかった秀君の声…

「みのりさん!元気でした!?」

なんで?

「電話くれるなんてすげー嬉しい!」

なんで出るの?

「今どこですか!?」

出ないでよ…
ゆっくり歩道に立った。

「秀君…」
「はい!…え?」

声がどこから聞こえたのかすぐには分からなかったみたい。元気に返事をして、数秒たってからぱっと振り返って、やばいとでも言いたげな目であたしを見た。
会いたかった。
声が聞きたかった。
本気で思ってたのはあたしだけ…

「あ、あ―…」

パタン、と、携帯が折り畳まれる音が重苦しい空間にやけに響いた。
何かが嘘なら、今のこの状況を嘘だと言って。
楽しかったから。
本当に好きだったから。
だから…

真剣なあたしとは違って、秀君は少し笑ってた。

「ばれたか」

ふざけた言葉を吐いて。

「…っ」

あたしは、何も言えなかった。

「みのりさん、俺ね」

人の気も知らないで近づいて来る秀君。
なんでそんな普通なの?
なんでいつもあたしだけ真剣なの?

「俺みのりさんが」

パンッ

渇いた音が辺りに響く。
生まれて初めて誰かを叩いた。
呆然とする秀君の顔が、涙でぼやけて見えなくなる。

全部嘘だったんだ。
大学生ってのも。
愛人って言ったのも。

叩いたのはあたし。
そのくせこっちの全身がチクチク痛い。
でも思わずにはいられなかった。

嫌い。
秀君なんか大っ嫌い――…



《つづく》


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