熱帯夜の終わり-10
「…そ、」
「そ?ぅお!?」
バッと手を振り払われて、バランスを崩しかけて慌てて窓のサンにしがみついた。
「そんな先のこと分かんない!」
そう言って、カーテンだけが勢いよく閉められた。
「みのりさん!」
返事のないカーテンの向こうに一方的に話し掛けた。
「俺、頑張るから!」
やっぱり返事はない。
でも否定はされなかった。
「…ふっ」
やばい。
口角が上がったまま戻りそうにないぞ。
誰も見てないのは分かるけど、でも何となく恥ずかしくて左手で口を押さえた。
秀君って呼んでくれたし。
雨戸、閉め忘れてるし。
俺とみのりさんはただのお隣りさん。でも、やっとその位置に立つことができた。
俺の望むような関係になるにはまだまだスタートラインすら見えないけど、いつかまた、お祭りに行った時みたいに隣を歩きたい。
机の上の参考書を手にとった。
買って以来一度も開いてないそれは折り筋がない代わりに埃だらけで、まるでやる気のない自分の象徴のよう。
うん、頑張ろう。
堂々と迎えに行けるように。
この行動に意味があるのかは分からない。でも何かしなきゃいけない。
だからまずは、一ページ。
《終わり》