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《 アクア 》
【ファンタジー その他小説】

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《 アクア 》-2

 目を覚ますと、鳥のさえずりが聞こえています。暖かな太陽が男を照らし、泉の縁、柔らかい草の上に男は寝ていたのです。何か不思議な気分でした。体中に力が溢れ、火傷や怪我もなくなっておりました。
 一羽の鳥が男のすぐ傍らで、首をかしげております。男は思わず腕を伸ばし、鳥に触れようとしました。よく見ると、鳥は何かをくわえているようです。その鳥は少し羽をはばたかせ、差し出された男の腕に飛び乗り、また首をかしげます。そしてゆっくりと飛び立ち、男の頭上でくるくると回ったのです。不思議に思った男は、しばらくその鳥を眺めておりましたが、鳥は不意に砂漠へと飛んでいったのです。その姿を追い、男も泉を離れ、鳥を追いかけます。
 砂漠に出ると間も無く、鳥が何かを落としたのがわかりました。それは、先ほどくわえていた物のようで、男はただその光景を見ていたのです。しかし、不思議な出来事はすぐに起こりました。
 先ほど鳥が何かを落とした場所に、小さな水溜りができたかと思うと、コンコンと水が湧き出てきたのです。その光景が信じられず、男がその新たな泉を見つめていると、また何かが落ちてきます。
 空を見上げると、鳥が2羽、男の頭上をくるくる回っています。新たにもう1羽の鳥が、何かを運んできたようです。落ちてきたものを見ると、何かの種のようです。しかし、種はすぐに溶け、そこから、水が湧き出し始めたのです。信じられずにその光景を見つめていると、鳥がさえずりながら、元の泉へと帰っていきます。男はそれを見て、鳥を追いかけたのです。

 泉に戻った男を迎えたものは、先ほどの種をくわえた鳥達でした。男はあることを考えておりました。男は鳥に話し掛けたのです。『その種を分けてはもらえないだろうか』そうして手を差し出したのです。すると、鳥達はかわるがわる男の手に種を運び、運んでは男の腕に止まりました。
 男はいつの間にか泣いておりました。『ありがとう、ありがとう・・・』そうして、街へ戻る決心をしたのです。
 不思議な事に、鳥たちは街までの道を導いてくれたのでした。導かれるままひたすらに歩きつづけ、男は数日かけて街に戻ったのです。街は、やはり焼けてしまっておりましたが、その中で残った民が懸命に暮らしておりました。いつしかあの美しい町を取り戻そうと、懸命になっておりました。
 男が戻った事を、すべての民が歓迎し、喜び、そして、うれしさのため泣き出す者もおりました。
 男は砂漠で出会った不思議な泉の事、持ち帰った種の事を話します。しかし、なかなか信じてもらえないため、それならばと、種を町の片隅に蒔いてみたのです。すると、やはり泉ができたのです。透き通った水をコンコンとたたえる、それは美しい泉になりました。街の民は驚き、そして、喜んだのです。

 それから、幾年も経ちました。太陽は相変わらずまぶしく照り、男の蒔いた種からできた泉は、未だに水をたたえておりました。街は昔の美しさを取り戻し始め、あの炎を知らない民も多くなり、しかし昔と同じように、優しさと力強さと笑い声が街中に満ちておりました。
 男は年を取り、泉のわきに住んでおりました。ときどき、砂漠の中にあったあの泉を思い出すのですが、幾人もの民が探したにもかかわらず、見つける事ができないのでした。
 いつしか、あの泉はおとぎ話のものとなってしまうのでしょう。しかし、それでも良いと、男は考えていました。そして、太陽に照らされながら、おとぎ話に出てくるあの泉は、なんと呼ぼうか。そんな事を考えて、穏やかに過ごしていたのです。


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