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《 アクア 》
【ファンタジー その他小説】

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《 アクア 》-1

 遠く暑いある国の中、まぶしく太陽の照るその街はいつも穏やかに暑いのでした。
 水こそ不自由がありましたが、それを補っても余るほどの優しさと、力強さが街中に満ち、笑う声が絶えない街です。
 その国で生まれ育ち、やはり優しく力強い男がおりました。その男は街の外れで愛する妻と小さな息子と、ささやかに暮らしていたのです。ある出来事までは・・・

 炎は恐ろしく強く素早く、街は一瞬のうちに飲み込まれ、太刀打ち出来るものは誰一人としておらず、たった一晩で全てを焼き払ったのです。
 美しかった街も、穏やかに暮らす人々も、果たしてほとんど焼けてしまったのです。
 男は、炎の巡る街の中ひたすらに駆け回り、人々を助けようと自分の体の火の粉も払わず懸命に走り続けておりました。同じくして、数人の街の民が奔走したにも関わらず、やはり炎は人よりも強大だったのです。夜が明けるとそこには、いつもと変わらず街を照らす太陽だけが残ったのでした。
 男と、残った数人は、街の真ん中であったはずの場所で泣いておりました。幾時間泣き続けたのでしょうか。それもわからないほど打ちひしがれたのです。

 男がふと辺りを見回してみますと、妻と息子がいないのです。男の心はざわめきました。自分の家があったであろう場所へ走ります。道なき道を、ススだらけの街を駆け、未だ炎くすぶる焼け跡を走ります。幾度転んだでしょうか。どれほど火傷を負ったのでしょうか。そして気付いたのです。男の家も焼けてしまった事に。
 男に立ち上がる力はもう残っておりませんでした。ひたすらに自分の弱さを、自然の残酷さを憎んだのです。すでに太陽の沈んだ空を仰ぎ、美しい星空を見上げ、男は思ったのです。
 『私はここにいても無力だ』
 そして、男は一人、街を出たのです。当ても無く、ただ、街を後にしたのでした。

 広大な砂漠を、男は幾度も振り返りながら進みました。妻と息子を思いました。街に残った人々を思いました。美しかった街を思いました。その度に立ち止まり、悔しさや、せつなさ、苛立ちを覚え、それでも歩みを止めません。ただ、砂漠を進み続けたのです。
 どのくらい街から離れたのでしょう。男はもう力尽きようとしておりました。一睡もせず、何も食さず、男はただ、進み続けたのです。幾度目の朝だったのでしょうか、砂の丘に登った男の目に砂漠ではない緑色を彩る空間が映ります。男は導かれるようにその場へとたどり着くと、そこには、美しい木々があり、静かに水をたたえる泉に男は呆然とするのでした。果たしてありえない光景で、透して見える泉の底からは絶え間なく水が湧き出ているのです。そうして男は泣いたのです。
 『神様、なぜ私にこのような奇跡を見せるのですか?私は無力な臆病なのです。このような奇跡は、あの街にこそ起こして下さるべきなのです』
 ・・・そうして男は気を失い、目の前の泉に落ちていったのです。静かに、そして男の体は泉の底に横たえられたのです。


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