2・壁-1
霧は、晴れるどころか薄くなる気配すら見せなかった。
もうどれくらい経っただろう。朝早く来たから、今は昼くらいの時間かな。
父ちゃんや母ちゃんは何処にいるんだろう、俺達を心配してるに違いない。
でも、こんな深い霧じゃあ迷子の捜索も迂闊に行けない。
捜してる方が迷ってしまい、更に事態を悪化させてしまうかもしれないからな。
まだ慌てる程、状況は深刻じゃない。
父ちゃんが言ってた、もし霧が出たら歩き回らないで晴れるまでその場にいろって。
焦って変な行動を起こすのが危険だと、前にそう聞いた。
「フィア、寒くないか?」
「う、うん、大丈夫・・・」
分かっているつもりだけど、じっとしてると寒さが服を擦り抜けてくる。
歩いてる時は気が紛れたのに、今はかなり辛いな。
森の中って意外に風が強いんだな。夏は全然風が来なくて蒸し暑いくらいだったのに。
川で泳いでいても、上がって少しすればもう汗ばんでいた。
何も、こんな季節に、そしてこういう時にこなくたっていいだろ。森は意外に意地悪なんだな。
「お兄ちゃん、ここにいないとまずい?」
「どうしたんだ。じっとしてるの飽きちゃったのか」
「・・・早く帰りたい」
なるべくなら霧が晴れるまでここに待機していたい。
「お化け、怖い」
「そんなもの出ないって。単なる噂だよ」
「・・・怖い・・・」
フィアは俯いてしまった。
生意気な口をきくくせに、本当は泣き虫だからな。
未だに夜中、怖くて1人でトイレにも行けない。
「なんで出るなんて思うんだ」
「だって、噂だよ。何もなければ出回るはずないもん」
「じゃあ、見たっていう友達はいるか?」
フィアは口籠もり、何か言葉を出そうと空気を咀嚼していた。
「だろ。根拠もない事で怖がってるのは損だぜ」
「いないの・・・?ほ、本当に・・・?」
「ああ、いない。気にしすぎなんだよお前は」
俺だって、お化けがいないなんて立証は出来ない。
でも、いないんだ。きっと霧の中に迷い込んだ誰かが、自分の向かう場所が分からない恐怖で、もし襲われたらどうしようだなんて考えて、それで流したのかもな。
しかし、こんな場所に残されていたら、フィアじゃなくたって怖くなるのは仕方ない。
それに寒さは恐怖心を駆り立てる、なんて母ちゃんが言ってた。
お化けがいるという不安はなんとか抑えられた。
それでも、じっとしていたくないというフィアに根負けして、その場から少し動く事にした。
「いいか、俺のそばから離れるなよ」
「しっかり手繋いでて、そしたらはぐれないから」
言われた通りにしっかり手をつないだが、この距離ですらフィアの輪郭がはっきりとは確認出来ない。
だけど、ちゃんと隣にいる。この感触は幻なんかじゃないんだ。
さっきよりは深刻な表情では無くなったけれど、傍についててやらないといけない。