2・壁-5
「どういう意味だ、化け物」
『ん?説明が必要なのかい。足が痛むはずだよ』
「・・・・・・・・・」
あの壁・・・なるほど、そういう事なのか。
まさか噂でしか聞いたことがない化け物が、本当にスージの森にいたとはね。
それも、獲物を捕えて逃がさない変な魔法みたいなものまで使えるなんて。
『どっちか1人を喰うまで結界はこのままにしておくよ。喰われる決心がついたら、いつでも呼んでくれ。じゃあな』
化け物は光ったかと思ったら、一瞬でその場から消えてしまった。
ふざけやがって、遊んでやがるんだ。
あんな奴の言う通りにしてたまるか、冗談じゃない。
森を出たいなら生け贄を・・・嫌だ、言いなりになんて絶対に御免だぜ。
フィア、心配するな。
必ず森から出る方法はあるはずだからな。
〜〜〜〜〜
空が暗くなってきた。
冬は日が落ちるのが早いな、困った事だ。
思えば霧が辺りを覆ってしまうなんてかわいいものだったな。
お化けが実在したのは最悪だ。森から逃げられなくなるなんてもっと最悪だ。
キャンプで泊まった事はあるが、森の中で夜を迎えるのは初めてだぜ。
フィアはすっかり恐怖に怯えてしまい、さっきから一言も言葉を発しようとしなかった。
あのバカお化け、フィアをこんなにさせやがって。また出てきたら蹴り飛ばしてやる。
ボールだから蹴ったらかなり飛んでいくだろうな、きっと。
「フィア、寒くないか?」
「・・・・・・・・・」
ふるふるとその細い首を横に振る。
「もう夜になるから、出口を探すのは明日にしよう。真っ暗でよく見えないもんな」
「・・・・・・・・・」
とんでもない事になっちまったよな、俺達。
「・・・お兄ちゃん」
抱き締めていたフィアが、そっと口を開いた。
「・・・・・・ごめんなさい」
「なんで、謝るんだ。悪い事でもしたのか」
「私が、どんどん森の中に入っていったから、あんな化け物に捕まっちゃったんだよね」
「それは違うよ。噂でしか知らなかったんだし、フィアが自分を責める必要なんか・・・」
フィアの頬を一筋の涙が伝った。
まずいぞ、泣き虫だからもう泣きだしたら止まらなくなる。
「ごめんなさい、お兄ちゃん。ごめ・・・なさ・・・」
必死に止めようとしているフィア。でも、こいつにとってそれは難しい。
「・・・泣いていいぞ、気が済むまで」
「お、お兄ちゃん・・・?」
いいんだ、フィア。無理に止めようとしたら、余計に辛くなるだけだ。
だから、出なくなるまで泣いてくれ。我慢させればフィアを苦しめてしまう。