2・壁-4
「いった!ちょ、何これ、先に進めないよ!」
フィアも同じく顔をぶつけている。
俺の気のせいじゃないらしく、実際目の前に何かがある。
そこから場所を変えて出ようとしたが、緑がかった壁がまたあった。
これは何の真似なんだ、スージの森よ。
もっと遊んで行けばいいよ、まだまだ帰すつもりは無いから。そう言いたいのか・・・?
「おい、出せ。早くここから出せよ」
叩ける。
出口が見えてるのに、行く手を遮る壁があるぞ。ちくしょう。
「俺への挑戦だな、こいつ。よし分かった、そうくるなら力ずくでも脱出してやるからな」
十数歩さがり、助走をつけて、壁目がけて飛び掛かった。
手で駄目なら足でやってみるしかない。
「うあぁっ?!」
しかし、見えない壁は軽々と俺の飛び蹴りを弾いてしまった。
うまくいくと思ったのに・・・手より鍛えられてないからな。
俺にとって小麦粉をこねるのに手は大事だから、殴って傷付ける訳にはいかないんだ。
誰の仕業だ?
悪い夢の中に迷い込んだみたいだな・・・・・
『ムダだよ。僕の張った結界は人間なんかに破れないさ』
「フィア、何か言ったか」
「ううん。なんにも」
『僕が見えないのか?そこの人間のガキども。後ろだよ』
この森の中に俺達以外にも誰か居たのか。
でも、なんか変な事を言ってるな。どこの誰だか知らないが・・・・
「・・・・・?!」
そいつは、自ら口にした通り俺達の背後にいた。
正しく言うなら浮いていた、と言うべきだろうか。
丸くて緑色の、球体の様な物がふよふよと浮いている。
もしかして人魂・・・それにしてはかなり大きいけど、得体の知れない物であるのは間違いない。
『見えたか』
「お、おに、お兄ちゃん、こ、これ、あれだよ!」
「あれ、って?」
「噂のお化け!!間違いないよ、こいつだよ!」
お化けなんて、噂だけの存在じゃ無かったのか?
こいつが人を喰らう、スージの森に棲む化け物・・・・・
もっと巨大だったり、おぞましい姿を想像していた。
だが実際はボールに大きく目と口を落書きされた様な外見だったので、別の意味で驚いている。
『ケッケッケッ、驚いていいんだぞ。僕の口は体よりも大きく開くんだからな』
「ひっ・・・!」
氷柱の歯を剥き出しにしてくる化け物にフィアが怯えている。
そうはさせるか、俺が守ってやる。こいつの餌食になんかさせるもんか。
「近寄るな、化け物!フィアには手を出させないぞ」
『・・・焦るなよ、すぐには喰わないさ。お前らは逃げられないんだからな』
鋭い歯の向こう側で、不気味な笑い声が響く。