2・壁-2
「迷子ってやだね、お兄ちゃん。本当に心細くなっちゃって、嫌だね」
「そっか?親が近くにいないから、わりと好き勝手に遊べるんじゃないかな」
「どうしよう、このまま帰れなかったら。この霧、ずっと晴れないままなのかな」
「その時はその時で考えればいいよ。なんなら、家でも建てようか。木の枝かなんか沢山使ってさぁ」
無理しているのは自分でも承知の上だ。
後ろ向きな事しか言わないフィアをそれとなく励ましている、つもり。
歩いてみて気付いたんだが、意外と足元は見えるらしい。だから、何か落ちてたりしたら目印の変わりになるかもしれない。
でも、土ばっかりで全く変化が無く、分からなかった。
「お兄ちゃん・・・」
「どうした。やっぱり休みたいか?」
「・・・・・・・・・」
フィアは答えなかったが、代わりにお腹の方が答えてくれた。
そういや朝早かったから軽くしか食べてなかったもんな。腹の虫が鳴くのも無理はない。
何だかんだでフィアの奴、逞しいんだな。俺は元気のふりをしているけど、あんまり空腹は感じていない。
そんな余裕、無いんだ。
妹の前でお兄ちゃんが不安になったら駄目だから、カッコ付けてるだけ。
「だいじょぶ、お腹減ってない。我慢出来るよ。いつ森から出られるか分かんないもんね」
「いいぞ。そろそろ昼過ぎ、だろうし。弁当食おうぜ」
「・・・いいの?じゃあ、そうするね」
腹が減ってはなんとやら、だ。
シートは無いけどさっきも地べたに座ったんだし、今さら気にする事もない。
フィアはリュックから弁当の包みを取り出して、いそいそと開けている。
遠慮がちだったけどやけに手つきが早いな。
サンドイッチを頬張る様子は、いつものフィアと変わらないみたいだ。
俺は、いらない。
もしもの時の為に取っておこう。フィアがまた腹を空かした時に、無いと困るからな。
「あれ、お兄ちゃん。ちょっと周り見て」
「なんだよ、まさか霧が晴れてきたのか?有り得ないって」
「ちょっと見える様になってきたって。見てみなよ」
フィアに促されて景色に目をやると、確かにさっきよりは見える様になってきた気がする。
葉っぱが抜け落ちた寂しい木が、うっすらと浮かび上がっている。
はっきり確認できないけどその飾り気の無い景色が、妙に嬉しかった。
良かった、霧が薄れてきたぞ。でも、ここはどこだろう。
まあそのうちはっきりするだろうな。ひとまず・・・いや、かなり安心した。
「良かったねお兄ちゃん、これでやっと帰れるよ!」
「もっとゆっくり食えよ。焦らなくたっていいだろ」
「んぐっ!いったー・・・ほっぺ噛んじゃった」
「ほら、言ったそばから」
まったく世話の焼ける妹だ。
嬉しくなるといつもこうなんだからな、こいつは。
でも、俺も同じ気持ちだ。きっとすぐに霧は晴れて、いつものスージの森に戻るはずだからな。
父ちゃん、母ちゃん、心配かけてごめん。寄り道なんかしないでまっすぐ出入口に戻るから。
許してくれるよな?ちゃんと戻るんだからさ。
フィアが弁当を食っている間も辺りを覆っていた霧が薄れていって、食い終わるよりも早く元の森に戻った。
さっきまでの不安が嘘みたいだ。やっぱり、森は仲良しだな。昔から遊んでる友達だ、すぐに機嫌を治してくれて良かった。