「Wing」-6
「……で、軍人も楽じゃない訳よ……」
人生がどうたら言ってたが、完全に愚痴になっている。おばさんは既に離脱していた。
「クレアちゃん、聞いてる？」
「はいはい……聞いてますよぉ……」
早く雨が止まないかな……外を見るけどまだまだ止みそうに無い。まだこの愚痴を聞かなきゃいけないのか……
その瞬間、ドアが開かれた。そこに立っていたのは……
「あっ……」
思わず声が漏れた。
まったく今日はツイてない。無駄に暑かったり、変な女に絡まれたり、いきなり雨が振り出したり……街には入りたくなかった。なかったのだが近くに雨宿り出来そうな木が無かったので、仕方なしに街まで戻って一番近くの店に入った。幸い店内に人はあまりいない。客は男が一人と女が一人。女の方は見たことがあるような気がする。気のせいだろうか、こちらをじろじろと見ている。
「レオン？」
なんだ？ 何故俺の名を知っている？
「クレアちゃん。お知り合いかい？」
クレア？ 聞いたことのある名前だな……しかもつい最近……誰だ……？
「……ああ、さっきの……」
女の顔をもう一度見てようやく思い出した。先刻、この街へ送って来てやった奴だ。
「あんたレオンっていうのか。俺はカイザだ。よろしくな！」
なんだ？この軽い男は……この手の輩は無視するに限る……
「無視か？ つれねぇなあ……大体…………」
その後も何度か喋りかけてきてたが、俺が何も反応しないので諦めたようだ。椅子に座って黙り込んだ。やっと静かになったな……
「また会ったね」
次はこいつか……
「ああ……」
女が俺の隣にきて話かけてきた。あっちで男がまだ何やらぶつくさ言ってる。
「何でここに来たの？」
「雨……」
「レオンって何歳？」
「十七……」
「そうなんだ！ 私も十七歳なんだよ？」
「そうか……」
喋るのが面倒だから出来るだけ喋らないように適当に対応していた。すると女が、
「そんな風に話してて楽しい？」
呆れたように聞いてきた。
「別に……」
「じゃあ何でもっと楽しそうに喋らないの!?」
「さあ……」
「私と話すの、嫌？」
「別にあんたと喋るのが嫌な訳じゃない」
「じゃあ……」
「ただ人と話すのが苦手なんだ……」
「……」
「だから……悪いな……」
それ以上は何も言ってこなかった……まだ雨が降ってるな……少し眠るか……
瞼を重力に任すように落とす。雨音が心地良い……そのまま意識を深い闇にへと落とした。