「Wing」-38
「ん……私、本当に大好きなんだなぁって」
「……高いところが、か?」
「ううん……」
「……なら、空が? それとも夕日が……?」
「違うよ……」
「それなら……」
彼が、それなら何が、と言うより先に、
「あなたのこと」
と、答えてあげる。
少し体を離して彼の顔を見た。表情に変化なし……でも、
「耳、真っ赤だよ?」
私の顔もきっと真っ赤になってるんだろうけど。
「気のせいだ……」
「じゃあ何で顔逸らすの?」
「……」
黙り込んでしまった。
「……」
互いの言葉が無くなって、指先が痒くなるような感じの沈黙が流れる。
彼が口を開く。けど、声を出さずにぱくぱくさせるだけ。
「どうしたの?」
「……いや……その、な…………」
何なんだろう?
「…………腕が痛くなってきたから、降りてもいいか?」
「いいよ……ってちょっとぉ、それって私が重いってこと!?」
雲一つない夜空。ゆったりと流れる星の川。顔を半分隠した月がにっこりと笑いかけてくる。
泉のほとりに二人で並んで寝そべる。星空を真正面に見ながら色んなことを話し合った。
ゆっくりと確実に流れる時間。進む早さが変わることは決してないけど、人それぞれ感じ方が違う時の歩み。
「……そろそろ帰らないか……」
体を起こして言う。
「え〜? もうちょっと居ようよ〜」
「……十二回目……」
「何が?」
「……同じことを言った回数が……」
「だって……」
せっかく会えたんだから、もっといっぱいお話したいんだもん……
「帰るぞ……」
手を差し出してくれる彼。渋々その手を取る私。掴んだ右手の爪が長くなってる。
「……もう一度、行こう」
真っ白な羽を白銀が照らす。大きく羽ばたき、地を蹴って飛び立った。
人は死んだら星になるって聞いたことがある。星になって大切な人を見守るために空にいるんだって。もしそれが本当なら、今までこの世界でこれだけの数の人が亡くなって、これだけの数の別れがあったんだろう。でもその輝きは憂いの色を全く帯びずに夜空を彩っている。
目線と同じ高さにある星。近付いたはずなのにちっとも近寄った気がしない真上で輝く星。例によってお姫様抱っこで彼の腕に身を任せ、星の海に身を漂わせる。もしずっとこうしていられるなら、私は一生幸せを感じられると思う。
「……人は死んだら皆、星になるって聞いたことがある……」
さっき自分が考えてた事同じなので、思わずドキリとする。
「私も。それで高い空から大切な人を見守ってるって……」
彼が頷く。
「……でもな……多分違うと思う……」
一旦区切ってから、また話し始める。
「皆を守るためじゃなくて……自分は愛していたと伝えたいから、大切な人に伝えたいから……だからあれだけ輝けるんだと思う……」
そうかもしれないね。でないと悲しくてあんなに綺麗に光れないよね。
彼に突然抱き締められた。
ちょっと待って。いきなり何?