「Wing」-36
え〜? ここ何処? 前来た時はこんな場所、通ってないよね。迷った?
「どうした? 姉ちゃん。道に迷ったか?」
突然、背後から声を掛けられる。男が二人。どう見てもまともな人達には見えない。
「案内してやろうか? 何処に行きたいんだ?」
こんな人達、信用出来る訳ないじゃない。
「結構です。どうぞお構いなく」
立ち去ろうとすると腕を掴まれた。
「冷たいこと言うなよ。せっかく親切で言ってやったのによ」
「これは何か詫びて貰わないとなあ」
「何でもいいぜ。例えば姉ちゃんの体、とかな」
「離して!」
腕を振り払って走る。
「逃げるなよ、つれないなあ」
追ってくる二人の男。取りあえず誰か人のいる所まで走ろう。
来た道を戻り、もう少しで森を抜ける、という所で木の枝に躓いて転んだ。立ち上がろうとすると男達に肩と足を掴まれた。
もうダメ…………
そう思って目をつぶった時、何かを殴る音が聞こえた。目をゆっくり開けると片方の男が倒れていて、別の男の人が立っていて…………あ!
「何なんだ、テメエは!」
倒れている男を抱き抱えながら、もう一人の男が吠えた。
「……失せろ……」
低く響く声。怖じ気付いて、逃げ出した男。
「覚えてろよ!」
そんな捨て台詞を残して。
「……久しぶりだな」
彼は……長い黒髪に紅いヘアバンを巻いた、無愛想な顔に透き通るような碧い目をした彼は……
「危ないところを助けていただき、ありがとうございました。私はクレアと申します。失礼ですけど、あなたのお名前は?」
ポカンとした顔で私の目を見つめる彼。大きくため息をついて、額に手を当て、呆れたような顔をする。
「……俺の名前は……」
その後、彼を連れてお城へ戻った。門のところでノーヴさんに怒られたけど。そういえばノーヴさんは彼のことを覚えてたのに、彼はノーヴさんのことを全く覚えてなかった。ノーヴさんには悪いけど少し笑っちゃった。お城の中に入ると直ぐに彼は用事があるとか言って、何処かに行ってしまった。
部屋に戻って重苦しい服に着替え直す。ベッドに体を投げ出してハァーって息を吐いた。彼、カッコよかったなあ。あの目も綺麗な碧のままだったし。まあそれは当たり前だけど。まだ一年しか経ってないのに何年も会ってなかった感じがするのよね。いっぱいお話、したいなぁ。
トントン――扉をノックする音。
「クレア様、王がお呼びです」
また? さっき言ってた人が着いたのかなぁ? あ〜、やだなぁ……
「クレア様?」
仕方ないよね……
「わかった……」
足取りが王室に近付くにつれて重くなっていく。亀の方がまだ速いかもしれないくらい、ゆっくり歩く。