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「Wing」
【ファンタジー その他小説】

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「Wing」-34

 少年が再び飛翔した時、全ての静止と全ての兵士が動いた。
群がる。少年に。逃げる。少年から。
剣を構える者。剣を捨てる者。
槍を振るう者。槍を放る者。
弓をつがえる者。弓を落とす者。
我を失くしたように飛び込む者。我を忘れたように逃げ惑う者。
北を向く者。北を背く者。
死んでゆく者。行き長らえる者。

レオンに向かって行った兵士達は信じ難い現実を否定したいが為に。レオンから逃げて行った兵士達は信じたくない現実から逃避したいが為に。共通する物は未知への恐怖。翼を生やした異形のものへの恐怖。もはや北へ向かおうとする者は一人もいなかった。

 鷹よりも大きな翼を持つ銀髪の少年。剣と呼ぶにはあまりにも不細工な巨大な鉄塊と剣にしてはあまりにも美しい小さな装飾剣を構え、鎧の類は一切身に着けずに鮮血を纏って戦う少年。身体に刻み込まれていく傷の数と比例して死んでいく敵の数。敵を一撃で倒すその姿は闘うと言うよりは舞っているようであった。血に彩られた顔。その中で異なる色を放つ二つの眼。深く輝く緑の右目と輝きを忘れた碧い左目。



 累々と築かれた肉塊の山。五千人は殺したか、真っ白な翼は羽根先まで血に濡れ、長い銀髪は紅く染まりきっていた。
少年が何度目かの飛翔のために、翼を広げた瞬間、彼の右肩を翼ごと貫いた一本の弓矢。片膝をつく少年。さらに襲い掛かる槍剣。よろめきながらも立ち上がる。肩に刺さる矢を抜いて、剣を握り直し、もう一度、翼をはためかせた。力強く、羽ばたかせた。


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